
- Anthropicへの1.5億ドル支払い命令は学習自体ではなく、海賊版書籍の利用に対する制裁だった
- フェアユースの判断は「変容的」かどうかが焦点で、直接競合する場合は不適法とされる
- 米国では著作権法が1976年から更新されておらず、裁判所の解釈に委ねられている
Anthropic判決の内容
米国カリフォルニア州のWilliam Alsup判事は、AI企業Anthropicに対して作家グループに約15億ドルの支払いを命じた。ただし、この支払いはAIモデルの学習行為そのものに対するものではなく、海賊版サイトから書籍を複製して使用したことへの制裁だとされる。
判事はAIの学習を「作家を目指す読者が文学を学ぶこと」に例え、訓練用データとして利用することは適法だと判断した。この見解は、AI企業側にとって有利な先例になると専門家は指摘している。
フェアユースの争点
著作権法は1976年を最後に本格的な改正がなく、裁判所は50年前の基準をAI時代の問題に適用している。その中心となるのが「フェアユース(公正利用)」の解釈だ。フェアユースは、批判やパロディ、教育などの目的に限り、権利者の許可なく著作物を使うことを認める例外規定である。
裁判所は「利用の目的と性質」「利用された量」「市場への影響」などを考慮してフェアユースかどうかを判断する。特に「変容的(transformative)」な利用かどうかが重要で、元の作品を置き換えるのではなく、新しい目的や性格を持つかが問われる。
Anthropicのケースでは、学習が「競合作品を生むための複製」ではなく「読書に似た学習」とみなされた。しかし、すべての学習が適法になるわけではない。
対照的なRoss事件
もう一つの注目判決として、Thomson ReutersがRoss Intelligenceを訴えた事件がある。Rossは法律情報を収集したThomson Reutersのデータを利用して、競合するAI法務プラットフォームを構築した。
裁判所はRossの利用は「変容的」ではなく、直接競合する目的があるためフェアユースには当たらないと判断した。このように、学習目的が競合なのか、それとも別の用途なのかで結論が分かれる。
作家側が「AIが自分の作品を学習して合成書籍を作れば競合になる」と主張する可能性はあるが、この論点はまだ裁判で確定していない。
未解決の課題
AI生成物の著作権も別の論点だ。Thaler v. Perlmutter事件では、100%AIが生成した作品には著作権が認められないとされた。しかし、人間がどの程度関与すれば著作権が発生するのか、その割合をどう証明するのかは依然として不明である。
現時点では、多くのAI企業が係争中であり、最高裁レベルの確定判断はまだない。複数の裁判所で異なる判断が続けば、最終的にどの解釈が優勢になるかは今後の訴訟の行方にかかっている。
| 項目 | Anthropic事件 | Ross事件 |
|---|---|---|
| 学習目的 | 作品を置き換えず新しいものを生成 | 競合するAI法務プラットフォームを構築 |
| フェアユースの判断 | 適法(学習は読書に類似) | 不適法(変容的でない) |
| 制裁 | 海賊版利用に15億ドルの支払い | (原文に制裁額の記載なし) |
Like any reader aspiring to be a writer, Anthropic’s LLMs trained upon works not to race ahead and replicate or supplant them — but to turn a hard corner and create something different
作家を目指す読者が作品を読むように、AnthropicのLLMは作品を先取りして複製・置き換えるためではなく、新たなものを生み出すために学習した
今後の見通し
今後は、米国の各裁判所で異なる判断が続き、その集積によってAI学習の適法範囲が徐々に固まるとみられる。特に、競合する製品・サービスへの学習利用がどのように扱われるかが焦点だ。また、著作権法の改正や最高裁の判断が出れば、AI企業のデータ収集戦略に大きな影響を与えるだろう。日本企業は米国判例の動向に加え、日本の著作権法や今後の立法動向も注視する必要がある。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業がAIモデルを開発する際、学習データとして書籍や記事を利用する場合の法的リスクが具体化しつつある。Anthropic判決は「学習自体は適法」とする一方、データの入手経路に違法性があれば巨額の賠償につながることを示した。また、Ross事件は競合サービスとの関係で学習利用が制限される可能性を示しており、自社のAIが既存のコンテンツ市場と競合する場合は特に注意が必要だ。日本企業は、データの出所の適法性を確認した上で、利用目的が「変容的」かどうかを事前に検討することが求められる。
気になる点
- Anthropicが支払う15億ドルは何に対する制裁なのか?
- 判決では、AI学習自体は適法と判断されたが、書籍を海賊版サイトから複製して利用した行為が著作権侵害とされ、15億ドルの支払いが命じられた。つまり、学習データの入手方法に問題があったということです。
- 日本企業はこの判決の影響を受けるのか?
- この判決は米国のものであり、日本の著作権法は別の基準を持ちます。ただし、日本企業が米国市場向けにサービスを提供する場合や、米国のデータを使って学習する場合には参考になります。現時点で日本での同等の判断は公表されていません。
- AI生成物に著作権は認められるのか?
- Thaler v. Perlmutter事件では、100%AIが生成した作品は著作権の対象外とされました。ただし、人間の関与度合いによる線引きは未確定です。この判断は今後のAIを活用した創作活動に影響する可能性があります。
用語解説
- フェアユース
- 著作権者の許可なく著作物を使える例外。目的や市場への影響などで判断される
- 変容的利用
- 元の作品を置き換えず、新しい表現や目的を加えた利用のこと
- シャドーライブラリ
- 著作権を無視して書籍を公開する違法なオンライン図書館
- LLM
- 大規模言語モデル。大量のテキストデータを学習して文章を生成するAI
出典
Is it legal to train AI models on copyrighted books? It’s complicated
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