- Qwen 3.8-Maxは自社評価とVulcanBenchで結果が逆転。時間予算の差が原因とみられる
- トークン単価は請求額を予測しない。思考トークンの消費と空の結果に注意が必要
- 未解決実行の79%がタイムアウト。成功タスクあたりのコストと時間予算の明示が鍵
発表内容と検証結果の乖離
Alibabaは今週、モデル「Qwen 3.8-Max」を公開し、Claude Fable 5に次ぐ性能を持つと宣伝した。ただし、自社の発表資料では、コーディングエージェント関連の12項目のうち1項目でのみリードするという控えめな内容だった。一方、独立した評価ハーネス(ベンチマークの共通実行環境)であるVulcanBenchを使ったテストでは、最高の努力設定でも中位、デフォルト設定では最下位という、ほぼ逆の結果が出た。この実行はプレビュー版を使ったとみられる。
両方の結果は、それぞれに妥当なものである。その差はトークン予算と時間予算の違いによる。Alibabaの注釈によると、コーディング評価には5時間、PaperBenchでは1実行あたり最大12時間のタイムアウトが設定されていた。一方、VulcanBenchは45分から60分の実時間しか与えていない。時間予算の差は5倍から16倍に達しており、これが結果の大きな違いを説明しているとみられる。
価格では測れないコスト
Qwen 3.8-Maxの公開直後に注目されたのは、トークン単価の比較だった。DeepSeek-V4-Flash-0731は入力100万トークンあたり14セント、出力28セントで、Qwen 3.8-Maxは2ドルと6ドル、Kimi K3は3ドルと15ドルである。しかし、推論モデルでは回答を書く前の「思考トークン」を大量に消費し、トークン上限に達すると回答が空のまま終わることがある。この場合、全額を支払ったのに失敗と区別がつかない結果になるため、単価は以前ほど意味を持たない。
Artificial Analysisの測定では、DeepSeek-V4-Flashを最大努力で実行した場合の出力トークンは2億1000万に達し、クラス中央値の1億を上回った。トークン単価が安いため絶対コストは低く抑えられたが、冗長な出力は時間も消費し、用途によっては大きな負担になる。価格比較はあくまで出発点であり、実際のタスクでどれだけのトークンと時間がかかるかを評価する必要がある。
失敗の多くはタイムアウト
誤った回答と予算切れは異なる事象であり、修正方法も異なる。しかし、ほとんどのハーネスはこの区別を記録せず、リーダーボードも内訳を公表していない。7月に公開されたLong-Horizon-Terminal-Benchでは、17のフロンティアモデル(最先端モデル)を46タスクで評価し、各実行に90分を1回だけ与えた。未解決の実行のうち、タイムアウトが79%、モデル自身が停止したケースが19%、ハーネスエラーが3%だった。
タイムアウトになった実行は完了に近づいておらず、平均報酬は0.10から0.35の範囲だった。そのため、時間を延長すれば成功したとは限らない。つまり、ベンチマークは明示しなくても時間効率を暗に測定している。VulcanBenchの7月26日付レポートでは、Claude Opus 5の低努力設定が23タスク中20を解決し、高努力設定の18を上回った。追加の推論が必ずしも精度向上につながらない例と言える。
選定に必要な2つの対策
記事は、モデル選定にあたり二つの対策を提案している。一つ目は「成功タスクあたりのコスト」を使うことだ。これは、失敗した試行に費やした費用を含む総支出を、受け入れ検査を通過したタスク数で割った指標である。二つ目は、時間またはトークンの予算を受入基準として明示することだ。これらを考慮しない場合、ベンチマークの順位と実際の請求額が大きく乖離する可能性がある。
失敗率は設定によっても変わる。誤回答と予算切れを区別して記録すると、予算切れが支配的な失敗原因になるという。そのため、日本企業がモデルを選ぶ際も、自社のタスクに合った時間・トークン予算を定義し、成功タスクあたりのコストで比較するのが有効とみられる。今回のQwen 3.8-Maxの例は、評価条件を明示しない限り、モデルの実力を誤って判断するリスクがあることを示している。
First, the metric to use is cost per successful task: total spend, including everything you spent on attempts that failed, divided by the tasks that actually passed your acceptance check.
第一に、使う指標は「成功タスクあたりのコスト」です。これは、失敗した試行に費やしたすべてを含む総支出を、実際に受け入れ検査を通過したタスク数で割ったものです。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本企業が大規模言語モデル(LLM)を選定する際、ベンチマーク順位やトークン単価だけで判断すると、実際の請求額や開発効率と大きくずれる恐れがある。Qwen 3.8-Maxの例は、評価の時間予算が結果を左右することを示しており、自社の利用形態に合った条件で検証しなければモデルを過大評価しかねない。実務では、失敗試行のコストも含む「成功タスクあたりのコスト」を指標とし、許容する時間・トークン予算をあらかじめ定めておくことが有効とみられる。また、誤回答とタイムアウトを分けて記録することで、改善すべき対象がモデル側なのか設定側なのかを切り分けられるようになる。
用語解説
- ハーネス
- ベンチマークを一定の条件で実行するための共通テスト環境。同じタスクを与えてモデルの成績を比較する。
- 思考トークン
- モデルが回答を書く前の内部推論に消費されるトークン。推論モデルでは大量に使われ、コストや時間に影響する。
- cost per successful task
- 失敗した試行も含む総支出を、実際に完了したタスク数で割った指標。モデル選定の実質コストを示す。
- タイムアウト
- 処理が制限時間内に終わらず強制終了すること。ベンチマークでは未解決の主な要因となる。
出典
Qwen 3.8-Max and Claude Opus 5 show why raw benchmark scores don't predict the bill
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