
- Transformerの高コストと文脈長限界が背景
- Subquadraticがスパース注意機構、Manifest AIがパワーリテンションを開発
- Liquid AIとInceptionはハイブリッドや拡散アプローチで効率化
Transformerの限界
LLMの中核であるTransformerは、テキスト内の全トークン同士を比較するdense attention(高密度注意機構)に依存している。10,000語の文書では5,000万回の乗算が必要になるという。この計算量が電力消費の大きさにつながり、OpenAIは今年、計算資源に500億ドルを投じる見込みだと報じられている。
また、Transformerは逐次的にテキストを処理するため、コンテキストウィンドウ(一度に保持できる情報量)を大きくするのが苦手だ。推論モデルは自分へのメモ書き(チェーン・オブ・ソート)を読み返すため、さらにデータ量が増える。こうした根本的な問題が、新興企業の参入を招いている。
アテンションを改良する2社
まずSubquadraticは、全トークンではなく一部の組み合わせだけを計算するスパース注意機構を開発した。同社のモデルSubQは、検索やコーディングなどのタスクで主流LLMと同等の性能に達したと主張するが、業界には懐疑的な見方もある。数千人がウェイトリストに登録しており、早期公開が計画されている。
Manifest AIは別の角度から、アテンションの代わりにパワーリテンションと呼ぶ仕組みを採用する。これはコンテキストウィンドウの要約を保持し、重要でない情報を落とす方式だ。既存のTransformerモデルを最小限の再学習で変換できるとし、StarCoderを変換したPowerCoderや、Brumbyという新モデルを発表している。BrumbyはAlibabaのQwenの一部バージョンに匹敵すると主張する。
モデル構造の見直し
Liquid AIはTransformerを完全に捨てず、自社の液体ニューラルネットワークと組み合わせたハイブリッドモデルを開発している。モデルの20%がTransformer、80%が液体ニューラルネットワークで構成される。液体ニューラルネットワークは、モデルが動作中に学習を続けられる仕組みで、車載チップやRaspberry Piでも動く。同社は設計AIを使って最適な構成を自動探索している。
Inceptionは画像生成で使われる拡散モデルをテキスト生成に応用する。テキストを単語単位でなく、文や段落ごとに同時生成するため、高速化と低コスト化が図れる。同社のMercury 2はOpenAIのGPT-4に匹敵し、10倍高速だと主張する。Googleも拡散モデルを使ったプロトタイプ「Diffusion Gemma」を試作しており、競争が始まっている。
言語の枠を超えた試みと課題
Pathwayは言語に依存しないLLMを目指し、Dragon Hatchlingを開発した。このモデルは25万問以上のナンプレ(数独)を解くベンチマークで97%以上の問題を解き、大手ラボの主要LLMが全く解けなかったのとは対照的だった。ただし、これはあくまで一つの実証であり、実用性は未知数だ。
新興企業のアイデアはいずれも初期段階にあり、Transformerの優位性を覆せるかはまだ分からない。業界ではスパース注意機構の性能に懐疑的な声もある。今後の評価指標は『intelligence per dollar(1ドルあたりの知能)』になるだろう。それだけに、コスト効率と性能の両立が鍵を握るとみられる。
Ultimately, the currency is going to be intelligence per dollar.
結局のところ、通貨となるのは1ドルあたりの知能だ。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、LLMの運用コスト削減は喫緊の課題。新興企業の技術が実用化されれば、データセンターの消費電力や推論コストが下がり、小規模な企業でも高度なAIを導入しやすくなる。特に、Liquid AIのように低消費電力で動作するモデルはエッジコンピューティングや組み込み機器への応用が期待される。また、Transformer以外の選択肢が増えることで、特定のベンダーに依存しないモデル構築が可能になる。一方、新技術は成熟度が低く、検証には時間がかかる。日本企業は特定の技術に飛びつくのではなく、複数のアプローチを並行評価する姿勢が求められる。
用語解説
- Transformer
- 2017年に提案された、attention機構を用いたニューラルネットワーク。LLMの標準的な基盤技術。
- Dense Attention
- 入力テキストの全トークン同士を比較する注意機構。表現力は高いが計算量が多い。
- Sparse Attention
- 一部のトークンの組み合わせだけを計算する注意機構。計算量を削減できる。
- Power Retention
- コンテキストの要約を保持し、重要でない情報を落とす方式。Manifest AIが提唱。
- Liquid Neural Network
- 学習を続けられるニューラルネットワーク。Liquid AIが採用。
- Diffusion Model
- ランダムなノイズからデータを生成するモデル。画像生成で普及、テキストにも応用され始めた。
出典
These startups are chasing the next big thing in LLMs
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する