
- サイロモデルで顧客ごとに専用ランタイムを用意
- プール・ブリッジ・サイロの3パターンを比較
- IAMとCloudWatchで分離とコストを管理
発表の背景
Axoniusは、Amazon Bedrock AgentCoreを使ったマルチテナントAIエージェントの設計を、AWSブログで公開した。Axoniusは資産管理プラットフォームを提供する企業で、1,400以上のシステムからデータを統合し、セキュリティ・ITチームの手動作業を最大50%削減するとされる。同社のSaaS基盤はAWS上にあり、数百の顧客環境を分離して運用している。
今回のAIエージェントは、企業環境の状態を解釈してギャップやリスクを特定する。AIが数百万のデータポイントを分析することで、ジュニアアナリストでも高度な分析を行えるようになるのが目標だ。
マルチテナントの3パターン
SaaSプロバイダーがAIエージェントを導入する際のアーキテクチャには、サイロ・プール・ブリッジの3つのパターンがある。サイロはテナントごとに専用リソースを用意し、プールは共有リソースを複数テナントで使う。ブリッジは一部をサイロ、他をプールにするハイブリッドだ。
AgentCoreのランタイムでは、プールモデルでもセッションごとに一意のセッションIDを割り当ててユーザーセッションを分離できる。ブリッジモデルでは、専用エージェントを共有のBedrock Knowledge Basesに接続するといった構成も可能だ。
Axoniusが選んだ構成
Axoniusは既存のSaaS運用がサイロモデルだったため、AIエージェントでも同じ方針を継続した。顧客ごとに専用のAgentCoreランタイムを用意し、各セッションは独立したマイクロVM上で実行される。アクセス制御はIAMのリソースベースポリシーのみで行い、シンプルな認可モデルを実現している。
主な構成要素は、AgentCoreランタイム、Amazon ECRに保存するテナント別コンテナイメージ、Amazon Bedrockの基盤モデル、Amazon Bedrock Knowledge Bases、Amazon Bedrock Guardrails、Amazon CloudWatchである。Knowledge BasesではS3ベクターを使用し、メタデータフィルタリングでテナント固有のデータを分離する。Guardrailsはコンテンツフィルタリングとトピック拒否ポリシーを提供し、CloudWatchはトークン消費量の監視とアラートに使われる。
代替案との比較
Axoniusが検討した他の選択肢として、共有ランタイムでJWTを使うプールモデルと、共有ランタイムにゲートウェイを組み合わせるブリッジモデルがある。プールモデルは運用するランタイムが1つで済み、新規顧客のオンボーディングが迅速だが、分離がアプリケーションコードに依存する。ブリッジモデルはCedarポリシーとLambdaインターセプターを使ってインフラ層で分離を強制できるが、設定の複雑さが増す。
サイロモデルは分離性が最も高い一方、AWSアカウントあたりのエージェント数が既定で1,000という上限がある。大規模な顧客基盤では上限の引き上げや容量計画が必要になる。また、テナントごとのプロビジョニング遅延や、運用・監視のオーバーヘッドも課題として挙げられる。
現時点での注意点
なお、このブログにはAxoniusの採用構成の概要は示されているが、具体的なコードやパフォーマンス数値は含まれていない。実際の本番適用には、CloudFormationやCDKによる自動化、CloudWatchを使った監視設定などが別途必要になる。
また、既存の認証・認可モジュールとの統合方法についても、概念的な説明に留まっている。日本企業が同様のサイロパターンを導入する際は、自社のアカウント構造やネットワーク要件に合わせた追加設計が求められるだろう。
| 項目 | サイロ | プール | ブリッジ |
|---|---|---|---|
| 分離の仕組み | テナントごとに専用ランタイム | セッションごとにマイクロVM | 共有ランタイム+ゲートウェイでツール分離 |
| アクセス制御 | IAMリソースベースポリシー | アプリケーション内のJWTルーティング | CedarポリシーとLambdaインターセプター |
| 主な利点 | 最大の分離と独立した設定 | 運用単純と迅速なオンボーディング | インフラ層での多層防御 |
| 主な課題 | スケール制限と運用負荷 | アプリ依存の分離 | 複雑な設定とネットワーク管理 |
Even if the agent code has a routing bug, the Gateway blocks cross-tenant tool calls.
エージェントコードにルーティングのバグがあっても、ゲートウェイがテナント間のツール呼び出しをブロックする。
今後の見通し
Axoniusの事例は、SaaS企業がマルチテナントでAIエージェントを導入する際の参考になる。今後、AgentCoreのスケジュール上限が引き上げられたり、サイロモデルの運用を自動化する機能が強化されたりすれば、より多くの企業が同様の構成を採用しやすくなるとみられる。次の判断材料としては、Service Quotasの調整が可能かどうか、また、大規模なエージェント群を監視するためのCloudWatchの使い方の詳細や、実際のコスト削減効果のデータが公開されるかどうかが挙げられる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業、特にSaaSを提供している企業にとって、AIエージェントを複数の顧客にどう安全に提供するかは重要度の高い課題である。この記事のサイロ・プール・ブリッジという3パターンは、テナント分離の設計判断に役立つ。Axoniusの事例では、既存の運用方式を維持しつつAIエージェントを追加できることが示されており、AWS上で同様のサービスを展開する企業は、この構成を参考に自社のアーキテクチャを検討できる。また、IAMリソースベースポリシーによるシンプルな認可と、CloudWatchによるトークン消費量の監視は、コスト管理にも有効である。一方で、エージェント数の上限やプロビジョニングの遅延といった制約も明らかになっており、規模に応じた計画が必要だ。
気になる点
- なぜAxoniusはサイロモデルを選んだのですか?
- Axoniusは既存のSaaS基盤が顧客ごとに専用VPCを用意するサイロモデルだったため、AIエージェントでも同じ運用方式を継続できるからです。分離性を保ちつつ、現在のテナント管理手法を変えずに済みます。
- プールモデルでもセキュリティは大丈夫ですか?
- AgentCoreはセッションごとに専用のマイクロVMを割り当て、JWTのテナント情報を使ってアプリケーション層で分離します。ただし、分離はアプリケーションコードに依存するため、サイロモデルに比べるとリスクが高いとされます。
- ブリッジモデルの導入は難しいですか?
- ゲートウェイの設定やCedarポリシー、Lambdaインターセプター、STSロールの信頼関係など、多くの構成要素が必要になるため複雑です。VPC接続も追加で考慮する必要があります。
用語解説
- マルチテナント
- 複数の顧客(テナント)が同じシステムを共有して利用する形態。
- AgentCore
- Amazon Bedrockの一部で、AIエージェントを構築・接続・最適化するためのプラットフォーム。
- microVM
- 軽量な仮想マシン。セッションごとに隔離された実行環境を提供する。
- Cedar
- AWSが提供するアクセス制御のためのポリシー言語。
- STS AssumeRole
- AWS Security Token Serviceを使用して、一時的な認証情報を取得し、ロールを引き受ける仕組み。
出典
How Axonius built secure multi-tenant AI agents on Bedrock AgentCore
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