- Fenris Creationsと研究提携、EVE UniverseをAI研究環境に
- SIMA 2はGemini搭載、自然言語指示でゲームをプレイ
- オフライン環境から研究開始、能力成熟後に実用化
ゲーム研究の15年
Google DeepMindは2010年の創業以来、ゲームをAI研究の重要な舞台としてきた。2015年には深層強化学習のDQNがAtariの49種類のゲームを学習し、2016年にはAlphaGoが囲碁の世界チャンピオンを破った。2019年にはAlphaStarがStarCraft IIでグランドマスターの水準に達している。
こうした研究はゲームの枠を超え、AlphaFoldによるタンパク質構造予測などの成果につながっている。AlphaFoldは2024年のノーベル化学賞の対象となった。今回のEVE Onlineとの取り組みも、この流れをさらに先へ進めるものと位置づけられる。
汎用ゲームAI「SIMA 2」とは
SIMAは、複数のゲーム世界に対応できるよう設計された汎用エージェントだ。プレイヤーと同じ画面を見て、自然言語の指示を理解し、キーボードとマウスの操作で行動する。ゲームごとのAPIやソースコードへのアクセスは必要としない。
SIMA 2はGoogleの基盤モデルであるGeminiを搭載し、リアルタイムの推論と会話ができる。No Man's SkyやValheimなどの複雑な3D環境で、人間らしいプレイを実現しているとされる。ただし、研究段階の技術であり、現時点で製品として提供されているわけではない。
ゲーム開発者にとっては、既存のゲームを変更せずにAIを組み込める可能性がある。NPCの適応的な振る舞いや、開発中のQAテストなどへの応用が期待されている。
EVE Onlineを選んだ理由
EVE Onlineは2003年にサービスを開始した大規模マルチプレイヤー宇宙シミュレーションだ。数千の星系にわたる経済圏はプレイヤーによって動かされ、同盟や紛争、外交が複雑に絡み合う。20年以上にわたり、一つの永続的な世界が進化し続けている。
こうした環境は、AIにとって現実世界に近い難しさを持つ。継続学習、長期間にわたる記憶、数週間から数年に及ぶ計画、多数のエージェント間の協調や交渉などが求められる。
Fenris CreationsとGoogle DeepMindは、こうした課題を研究テーマとして位置づけている。
段階的に進める研究
今回の研究は、まず実際のプレイヤーとは分離されたオフライン環境から始まる。次にEVE Frontierを舞台に、人間とAIエージェントが共存する永続世界での研究が行われる予定だ。それぞれの段階で、異なる難しさがあるとみられる。
EVE Vanguardは一人称視点の高速な戦術的判断を、EVE Frontierはルール自体を書き換えられるオープンな環境を提供する。能力が成熟した段階でEVE OnlineとEVE Vanguardに応用することが想定されている。実際のプレイヤーとの併用は、研究が進んでからの判断になる。
また、すでに実用化の一例として、Geminiを活用した新規プレイヤー向けガイドシステム「Aura Guidance」が公開されている。
今後の注目点
具体的な研究スケジュールや、どのようなAI能力が実装されるかは現時点では公表されていない。オフライン環境での実験結果や、関連する論文が今後の判断材料になるだろう。研究の進展に応じて、新たな情報が公開されることが期待される。
また、AIエージェントが実際のプレイヤーと混在する際のバランスや、ゲーム内経済への影響などについては、まだ情報が少ない。Fenris Creationsが「人間とAIの共存」を重視している点は注目される。
| 項目 | EVE Online | EVE Vanguard | EVE Frontier |
|---|---|---|---|
| ゲームの形式 | シングルシャードの永続宇宙 | 一人称視点 | オープンな拡張アーキテクチャ |
| 研究テーマ | 大規模な経済・戦略の長期研究 | 高速な戦術判断の研究 | ルールが変わる環境での適応研究 |
| プレイヤーとの関係 | オフライン環境から開始 | 能力成熟後の適用先 | 人間とAIエージェントの共存研究 |
EVE Online was envisioned from day one as a sandbox of lasting consequences, shaped by its players. This has driven countless stories of human growth for players and employees across the decades.
EVE Onlineは、プレイヤーによって形作られる、永続的な結果を持つサンドボックスとして最初から構想されていた。この20年以上にわたり、プレイヤーや従業員に数え切れないほどの人間的成長の物語をもたらしてきた。
今後の見通し
今回の提携では、AIの継続学習や長期記憶といった基盤的な能力の研究が進むとみられる。EVE Onlineのオフライン環境でどのような実験が行われ、どのような結果が発表されるかが、次の焦点になる。AIエージェントが実際のプレイヤーと共にプレイする段階に至るには、安全性とゲーム体験への影響が慎重に検討される必要がある。今後、研究論文や技術報告が公表されれば、判断材料が増えるだろう。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のゲーム業界にとって、AIエージェントをゲームに組み込む具体的な事例として参考になる。特に、既存のゲームコードを変更せずにAIを導入できるSIMAのアプローチは、運営中のタイトルに応用しやすい。また、EVE Onlineのように長期間続く仮想世界でのAI研究は、製造業のサプライチェーン管理や社会シミュレーションなど、実社会の複雑なシステムのモデル化にも応用できる可能性がある。日本企業がAI人材育成や研究開発の場としてゲームを活用する際、この事例は有効なモデルになるだろう。
気になる点
- AIエージェントは実際のEVE Onlineプレイヤーと一緒にプレイするのか?
- 現時点では、実際のプレイヤーとは分離されたオフライン環境から研究を開始するとされている。実環境への適用は、能力が成熟した後の段階で検討されるとされており、具体的な時期は未公表だ。研究に使われる環境はライブプレイヤーから分離されているため、既存プレイヤーへの影響は現時点では及ばないとみられる。
- SIMA 2は一般ユーザーや他社のゲームでも使えるのか?
- 今回の発表では、SIMA 2は研究目的のエージェントとされており、一般向けの製品としては提供されていない。Geminiを活用したAura Guidanceのような実用化事例はすでにあるが、SIMA 2自体の公開時期や提供形態は明らかにされていない。
- Fenris Creations以外のゲームスタジオとの連携は?
- Google DeepMindはHello GamesやCoffee Stain Studiosなど複数のスタジオと提携している。Fenris CreationsはEVEシリーズの開発元で、20年以上にわたる世界運営の実績を持つ。今回のEVE Universeに関する提携は、その中でも長期的な研究パートナーシップとして位置づけられる。
用語解説
- SIMA
- Google DeepMindが開発するゲーム向け汎用AIエージェント。画面を認識し、自然言語の指示でキーボード・マウス操作を行う。
- Gemini
- Googleの生成AI基盤モデル。SIMA 2ではリアルタイムの推論と会話に使われる。
- 強化学習
- AIが試行錯誤しながら報酬を最大化する行動を学習する機械学習の手法。
- シングルシャード
- すべてのプレイヤーが同一のサーバー上の世界に接続する方式。EVE Onlineで採用されている。
出典
From Atari to EVE Online: Building on 15 Years of AI Research in Games
https://deepmind.google/blog/from-atari-to-eve-online-building-on-15-years-of-ai-research-in-games
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