
- 追加提訴30件、校内にいたが負傷しなかった教員・生徒らが原告に
- OpenAIが乱射事件を幇助したとする初の主張、意図の立証が焦点に
- 当局への通報見送りに幹部関与の疑い、OpenAIは否定
何が起きたか
米法律事務所エデルソンPCは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州タンブルリッジで起きた学校銃乱射事件をめぐり、OpenAIに対する追加の訴訟を今週、カリフォルニアの裁判所に起こす。4月には同事件の遺族や家族に関連する7件を提訴しており、今回はさらに30件が追加される。新たな原告には、事件当時建物内にいた教師や校長、生徒が含まれており、直接の銃撃は受けていない。
この事件は、2026年2月10日に同地で発生した。10代の犯人は自宅で母親と異父兄弟を殺害した後、タンブルリッジ中等学校で6人を殺害し、数十人を負傷させて自殺した。ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、OpenAIの社員は犯人のChatGPTでのやり取りに懸念を抱いており、銃暴力や襲撃計画の助言に関する会話も含まれていたとされる。
幇助罪という新たな主張
新たな訴状では、OpenAIが過失で事件を防げなかったのではなく、乱射事件を幇助したと初めて主張している。幇助にあたる法的責任を問うには、OpenAI側に故意があったことを立証しなければならず、訴えの初期段階で却下を求める申し立てに遭う可能性も高い。原告側がどのように意図を証明しようとしているのかが焦点になる。
原告側は、OpenAIの安全評価チームが当局への通報を求めたのに、経営陣がそれを覆したと主張する。訴状では、最高広報責任者クリス・レヘイン氏が当局への連絡を止めた本人だと名指しされているが、原告は「情報と確信に基づき」という表現を使っており、本人の関与を直接証明できる段階ではない。OpenAI側は関与を否定している。
OpenAIの説明と一貫性の問い
OpenAIは、犯人の活動が会社の内部基準でいう「切迫した信頼できるリスク」に該当しなかったと説明してきた。同社の法務責任者を統括する最高戦略責任者のジェイソン・クォン氏は、判断は完全ではないとした上で、安全性とプライバシーのバランスを考慮したものだと述べている。ただし、犯人はアカウントを無効化された後、すぐに別のアカウントを作成しており、防止措置が十分だったかは疑問が残る。
新たな訴状は、OpenAIがこれまでに示してきた「緊急性」と「プライバシー」の理由づけに反論するため、2025年11月に起きた別の事例を挙げる。同社はサンフランシスコの自社オフィスに対する脅威を受けて、即座にオフィスを封鎖し、警察に通報して従業員に情報を共有した。原告は、自社が危険にさらされた際にはプライバシーを理由に動かなかったではないかと指摘している。
幹部の関与と企業文化
訴状は、レヘイン氏が率いる体制が問題だとする。レヘイン氏は、クリントン政権やAirbnbなどでダメージコントロールを専門としてきた広報戦略の人物で、その経験から、安全よりも広報を優先する企業文化が生まれたと訴えている。具体的には、実世界の暴力につながるユーザーを特定するチームが同氏の管理下に置かれたと主張するが、OpenAIはこの点も否定している。
原告の主任弁護士ジェイ・エデルソン氏は、証拠は現時点で全て開示しないとし、レヘイン氏と最高経営責任者サム・アルトマン氏が重要な証人になると語っている。アルトマン氏はこれまでの7件の訴状に引き続き被告に含まれるが、レヘイン氏は被告にはなっていない。今後の証拠開示が、内部でどのような判断が下されたのかを明らかにする可能性がある。
| 対応項目 | 自社オフィスへの脅威(2025年11月) | 事件ユーザーへの対応(2026年2月) |
|---|---|---|
| 切迫した脅威の認識 | 「活発な脅威活動の兆候はない」としつつ対応 | 「切迫した信頼できるリスク」に該当しないと判断 |
| 当局への通報 | 即座にサンフランシスコ警察へ通報 | カナダ当局への連絡は見送り |
| 内部での周知や措置 | 従業員に警告し、容疑者の氏名と写真を配布 | アカウントを無効化したが、短期間で別アカウント作成を許した |
When its own people were at risk, no 'privacy' interest stopped OpenAI from notifying the police or circulating the man's name and photograph to thousands of employees.
自社の人間が危険にさらされたときに、警察への通報や、数千人規模の従業員に対する男性の氏名・写真の周知を止めさせた『プライバシー』は存在しなかった。
今後の見通し
今回の訴訟は、AI提供者がユーザーによる危害のおそれを検知したときに、どこまで当局と連携すべきかを問うものになる。幇助罪の主張は立証が難しく、初期段階で退けられる可能性も高いが、証拠開示が進めば、内部の意思決定プロセスやレヘイン氏の実質的な関与が明らかになるかもしれない。また、OpenAIには安全対応をめぐる他の訴訟や規制上の議論も控えており、今回の司法判断が今後のAI事業者の責任範囲を示す一つの指針になるとみられる。次に注目すべきは、裁判所が幇助罪の主張をどの段階で扱うかと、原告が示す内部文書や組織図の証拠の内容といえる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業がAIサービスを提供する際、今回の訴訟は、ユーザーの言動から実世界の危険を検知する仕組みを持つべきか、その判断を誰が下すのかという設計を迫るものになる。日本では個人情報保護法などとの関係で、簡単に当局へ通報できない事情もあるが、自社のリスク評価基準やエスカレーション手順を文書化し、判断記録を残すことはガバナンス上有効だ。また、広報や経営陣が安全判断に介入する体制は、実際に問題が起きた時に企業の説明責任をあいまいにするリスクがある。AIの社会的リスクを技術面だけでなく、組織文化や責任分担の観点からも点検する必要があることを、あらためて示している。
気になる点
- OpenAIは今回の主張をどう否定しているのか?
- OpenAIのジェイソン・クォン最高戦略責任者は、クリス・レヘイン氏が当初の通報判断に関与したという主張は完全に虚偽であり、調査チームが同氏の指揮下にあるという事実もないと述べている。また、判断の中心にいた人々が安全を軽視しているという指摘にも反論し、政治や広報などの要素が働いたことも否定している。
- 幇助罪の立証はどれほど難しいのか?
- 幇助罪で責任を問うには、OpenAI側に故意があったことを示す必要がある。原告は現時点で全証拠を明かしていないが、組織図や内部調査に基づいて、レヘイン氏とアルトマンCEOが重要証人になると述べている。法執行機関と連絡するかどうかのプロセスが明らかになれば、立証の成否が見えてくるだろう。
- 日本のAI事業者にも影響を与えるか?
- 直接的な法的拘束力はないが、AIを提供する事業者がユーザーから危害の予告を検知したときに、当局へいつ通報すべきかという論点は日本にも共通する。監視とプライバシーのバランスや、対応を決める責任者が誰かを明確にしておくことは、訴訟リスクを下げる上でも重要になると考えられる。
用語解説
- ChatGPT
- OpenAIが提供する対話型AI。ユーザーの質問に自然に応答するが、実世界で危害を計画する目的に使われ得ることもある。
- 幇助
- 他人の犯罪行為を助けること。米国の訴訟では、故意に行為を促進したことを立証できれば法的責任につながり得る。
- 切迫した信頼できるリスク(imminent and credible risk)
- OpenAIが当局との連携を判断する際に使う内部基準。近い将来に重大な危害が生じる可能性が高いと評価される状態を指す。
出典
OpenAI faces 30 more lawsuits tied to Tumbler Ridge shooting
https://techcrunch.com/2026/09/02/openai-faces-30-more-lawsuits-tied-to-tumbler-ridge-shooting
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