- 実企業の非公開コードベースを出題する新ベンチマーク。解答は公開インターネット上に存在しない
- 最高スコアはFable 5.1+Claude Codeの38.8%。全タスクを解いたモデルはない
- 推定コストは1回あたり2.50〜6.96ドル。コストと解決率は比例しない
Real-SWEとは何か
Real-SWEは、非公開の実企業コードベースを対象に先端AIモデルを評価するベンチマークです。出題される課題は、実在する企業からライセンスを受けた非公開の本番コードベースに由来し、その企業のエンジニアが実際に取り組む種類の作業だと説明されています。コードも解答も公開インターネット上には存在しないため、モデルにとって本質的に未知の課題になるとしています。
特徴として挙げられているのは3点です。第1に私有コードベースであること、第2に請求や税計算、顧客移行など事業の運用に影響する変更であること、第3に企業ごとのコーディング規約やルールを理解する必要があることです。記事では、既存製品が持つ文脈と複雑さがそのまま課題に含まれると説明しています。
評価では、モデル単体ではなくモデルとハーネス(エージェントを動かすCLIやツール群)の組み合わせを測ります。実際の企業エンジニアの作業の進め方に近づけるためだと説明されています。
最高でも38.8%の解決率
公開された結果では、首位はFable 5.1とClaude Codeの組み合わせで解決率38.8%でした。続いてGPT-6 AstraとCodex CLIが33.8%、Gemini 3.8 FlashとGemini CLIが31.2%となっています。Grok 4.6とGrok Build、Muse Spark 1.3とMuse Codeがともに23.8%で並び、下位はKimi K3の18.8%、GPT-5.6 Solの16.2%でした。最高でも4割弱にとどまっています。
ロールアウト1回あたりの推定コストは2.50ドルから6.96ドルの範囲です。記事は「コストが高いからといって解決率が高いとは限らない」と明記しており、実際に最も低コストのGemini 3.8 Flash(2.50ドル)が3位に入っています。
分析対象の10タスクのうち6タスクは解決率が15%未満でした。また、どのモデルもすべてのタスクを解けておらず、モデルごとに失敗の仕方も異なると報告されています。
失敗の中心は要件の取りこぼし
課題の指示文は変更の内容を述べるにとどまり、実装の詳細はエージェント自身がコードベースや周辺ツールから見つけ出す必要があります。典型的な指示は1,742文字で、変更が及ぶファイル数は11にのぼります。これはFrontierCodeやDeepSWEの6ファイルより多い数字です。
失敗の分類では、要件の取りこぼしが最も多いと報告されています。記事は、既存の業務ロジックやコーディングパターンが詰まったコードベースで要件を読み解くことが難しいためだと説明しています。
実行時間の長さも失敗率を大きくは変えませんでした。10分未満のロールアウトの失敗率は71.4%、それより長いロールアウトは73.4%で、ほぼ同水準です。早い段階でつまずくケースが多いことを示唆するとみられます。
評価方法と現時点の限界
各エージェントは隔離されたサンドボックスで実行され、タスクはHarbor形式で提供されます。検証器は採点時に投入され、コードベースに既存のテストスイートを参考にするか、そのまま使うと説明されています。
コードベースは、実際の利用規模が大きく、エンジニアリングチームが強く、本番負荷が厳しい企業から選ばれたとしています。例として、20万人以上が利用しApp Storeでトップ100に入るアプリ、10万件を超える銀行明細を処理する消費者向けフィンテック、複雑な業務フローを扱うエンタープライズAI営業プラットフォームが挙げられています。
一方、記事で示されているのは10タスクのサンプル分析であり、ベンチマーク全体のタスク数や公開範囲は明らかにされていません。数値はいずれも1タスクあたり8回の試行に基づくものです。
| モデル + ハーネス | 解決率 | 推定ロールアウトコスト |
|---|---|---|
| Fable 5.1 + Claude Code | 38.8% | $6.96 |
| GPT-6 Astra + Codex CLI | 33.8% | $4.67 |
| Gemini 3.8 Flash + Gemini CLI | 31.2% | $2.50 |
| GLM 5.3 + Claude Code | 28.8% | $5.12 |
| GPT-5.6 Sol + Codex CLI | 16.2% | $2.65 |
99% of tokens in real-world enterprises are hidden away from the frontier models.
実世界の企業にあるトークンの99%は、最先端モデルからは隠されている。
今後の見通し
Real-SWEは、非公開の企業コードベースという公開ベンチマークでは測れない領域を持ち込んだ点が特徴です。ただし示されているのは10タスクのサンプル分析にとどまるため、ベンチマーク全体のタスク数や難易度分布、検証の再現性が明らかになれば、スコアの位置づけを判断しやすくなるとみられます。企業固有のコーディングパターンの理解が今後のモデル改善でどこまで進むかも焦点です。日本企業のコードベースが対象に含まれるか、日本語の指示を含む課題が扱われるかは記事からは分かりません。自社コードでの評価を検討する場合は、情報の公開を待つか、社内で同種の評価を設計するのが現実的と考えられます。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとっての意味は、公開ベンチマークのスコアが自社コードベースでの性能を保証しないという点を、具体例つきで示したことです。Real-SWEの最高解決率は38.8%で、課題は公開インターネットに存在しない私有コードに由来します。社内の決済・請求・基盤コードも同じ性質を持ち、外部モデルにとって未知の領域です。導入検討では、解決率だけでなく1回あたりのコスト、失敗の種類(要件の取りこぼしが多いこと)、変更が及ぶファイル数を見て任せる範囲を決める必要があります。評価設計の面では、隔離サンドボックス、既存テストを検証器に使う方針、モデルとハーネスを組み合わせて測る考え方が社内ベンチマークを作る際の参考になります。まずは業務影響の小さい変更から試すのが妥当と考えられます。
気になる点
- Real-SWEの課題は誰でも試せるのか
- 課題の元になっているのは実企業からライセンスを受けた非公開のコードベースで、記事ではサンプル課題へのアクセスはリクエスト制とされています。ベンチマーク全体の公開範囲や利用条件、料金は現時点では公表されていません。
- コストの高いモデルを選べば解決率は上がるのか
- 記事のデータでは必ずしも比例しません。最高スコアのFable 5.1は推定6.96ドルで最も高コストですが、2.50ドルと最も安いGemini 3.8 Flashが31.2%で3位に入っています。「コストが高いほど解決率が高いとは限らない」と明記されています。
- 既存のSWEベンチマークと何が違うのか
- 記事では典型的な指示の長さが1,742文字とされ、FrontierCodeの2,056文字、Terminal-Bench 3の1,584文字、FrontierSWE v2の992文字と同程度です。一方で変更が及ぶファイル数は11と、FrontierCodeやDeepSWEの6より多く、何より非公開の企業コードという点が大きな違いです。
用語解説
- ベンチマーク
- AIモデルなどの性能を共通の課題で測り、比較するための基準。ここではコーディングエージェントの実務能力を測るものを指す。
- ハーネス
- エージェントにコード編集やコマンド実行をさせるCLIやツール群。Real-SWEではモデルと組み合わせた状態で評価される。
- 解決率(resolution rate)
- 出題された課題を検証器が通した割合。1回の試行ごとに判定され、モデルとハーネスの組み合わせ単位で集計される。
- ロールアウト
- エージェントに1つの課題を最初から最後まで解かせる1回の試行。Real-SWEでは1タスクあたり8回実施される。
- 分布外(out of distribution)
- 学習データに含まれない性質の課題。非公開コードベースの課題はこれに当たると記事は説明している。
出典
Real-SWE: Benchmarking AI models on private, real-world, enterprise codebases
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