
- AnthropicのDario Amodei CEOが第三者評価者の社内常駐を提案、OpenAIも追随を表明
- 完成モデルだけでなく訓練途中のチェックポイントや評価ログへのアクセスを想定
- 評価者らは期間・アクセス・公開範囲の制約を懸念し、法規制による裏付けを求める
何が提案されたのか
AnthropicのDario Amodei CEOは、週末に公開した長文のエッセイで、フロンティアAI企業の内部に第三者の評価者を常駐させる構想を示した。評価者には安全性インシデントを報告し、モデルが本当にアラインメントされているかを評価し、その結果をありのまま世界に共有する権限を与えるという内容である。1年前なら業界が即座に拒否していたであろう提案だと、記事は位置づけている。
Amodei氏は、METRやRedwood Researchといった独立系の評価機関に、同社のシステムへの前例のないアクセスを提供すると述べた。OpenAIのSam Altman CEOも同じ取り組みにコミットすると表明しており、業界と外部研究グループの関係が大きく変わる可能性があるとされる。
訓練過程へのアクセス
従来、AI企業はリリース直前に完成したモデルを外部のレビュアーにテストさせてきた。今回評価者らが求めているのは、最終モデルだけでなく、訓練の過程で生まれた中間バージョン、いわゆる「チェックポイント」へのアクセスだ。
FAR.AIのAdam Gleave CEOによれば、評価者はチェックポイントを比較して問題のある挙動がいつ現れたかを特定し、特定の挙動を報酬で強化する事後学習の環境を検査し、評価の記録やログを確認して企業の説明の真偽を検証できるという。Gleave氏は、意味のあるアクセスはモデル本体にとどまらず、企業の安全性に関する文書や公表内容が実際の運用と一致するかを確認するための従業員インタビューにまで及ぶと指摘した。
背景には、モデルが評価されている状況を認識する能力が高まっていることがある。テスト中は良い振る舞いをし、問題のある挙動を隠すリスクが指摘されており、完成モデルのテストだけでは手がかりを見逃す可能性があると研究者は述べている。
過去の評価で露呈した制約
独立評価の実績は、アクセスの確保が簡単ではないことを示している。Hugging Faceのインシデントを調査した際、OpenAIはMETRとRedwoodに社内で調査できる時間をおよそ1週間与えたが、両機関は後に範囲と時期の制約から確信のある結論は出せなかったと述べた。
OpenAIが「最もアラインメントされたモデル」と宣伝するGPT-6 Astraのリリース前テストでは、Apollo Researchに与えられた期間はわずか3日だった。同社はモデルカードへの寄稿で、評価認識率の高さと評価期間の短さから、挙動の逸脱が少ないことはアラインメントの証拠にはならないと記している。
こうした経緯から、評価者には「なぜ今回は違うのか」という根本的な疑問が残る。Gleave氏は、両CEOが心変わりした可能性はあるとしつつ、企業にとって自社の知的財産は極めて価値が高く、共有される内容には慎重にならざるを得ないとの見方を示した。
規制と業界の動き
研究者らは、企業が公開に合意する透明な枠組みの必要性を訴えている。Palisade ResearchのJohn Steidley氏は、企業が都合よく未熟な評価者を選んで問題を回避しないよう、監査人の資格に関する基準も枠組みに含めるべきだと述べた。
Safer AIのHenry Papadatos氏は、公開された枠組みであっても自主的な措置は企業の善意に依存すると指摘する。大きなPR危機が起きた翌日に方針を変えられないよう、規制による義務化が望ましいという考えだ。
規制の動きはすでにある。カリフォルニア州のSB 53は大規模なフロンティアAI開発者に安全性フレームワークの公開と重大インシデントの報告を義務づけ、今月署名されたSB 813は州が認定する「独立検証機関」の枠組みを設ける。EUのAI法もモデル評価や敵対的テストの実施・記録と重大インシデントの報告を求め、EU AI Officeが独自の評価を行い独立した専門家を任命できるとしている。
分かっていないこと
AnthropicとOpenAIが、どの評価機関と、いつ、何人を常駐させ、どのシステムや情報にアクセスさせ、何を公開できるようにするのかは明らかにされていない。TechCrunchが繰り返し質問したが、両社は回答していない。
Meta、SpaceXAI、Google DeepMindはこれまでのところ、第三者の評価者を常駐させる取り組みにコミットしていない。ただしDeepMindのDemis Hassabis CEOは、フロンティアモデルを独立にテストする別の業界標準団体を提案している。Google、OpenAI、Anthropicは数週間にわたりAI安全性計画を非公開で協議してきたとされる。
| 項目 | 従来の評価 | 提案された常駐評価 |
|---|---|---|
| 評価の時期 | リリース直前の完成モデルが中心 | 訓練中のチェックポイントも対象 |
| アクセス範囲 | 完成モデルのテストが中心 | 訓練過程・事後学習環境・評価ログ、従業員インタビュー |
| 結果の公開 | 制限的なNDAの下で契約 | Anthropicの編集権なしで主要な知見を公開 |
The answer to this should be an unequivocal no, and right now we are completely relying on AI companies to both carefully check this themselves and then truthfully report this to the public.
この問いへの答えは明確に「いいえ」であるべきだが、現状はAI企業が自ら注意深く確認し、その結果を正直に公表することに完全に依存している。
今後の見通し
今回の提案がどこまで実行されるかは、両社が評価機関や常駐の時期、アクセス範囲、公開の可否をいつ公表するかにかかっている。公開フレームワークや監査基準が整い、評価者が契約上の制約ではなく独立性を保てる形になるかが焦点になるとみられる。カリフォルニア州のSB 813にもとづく「独立検証機関」の運用やEU AI Actの執行状況が明らかになれば、自主的な取り組みと規制のどちらが実効性を持つかを判断する材料になるだろう。MetaやGoogle DeepMindが追随するかも、業界全体の標準になるかを見極める指標になると考えられる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業や開発者にとって、この議論は対岸の話ではない。自社でフロンティアモデルを開発していなくても、AnthropicやOpenAIのモデルをAPI経由で業務システムに組み込む企業は、そのモデルの安全性がどのように検証されているかに依存することになる。評価が短期間・限定的なアクセスで行われているなら、業務用途で想定外の挙動が生じるリスクを自社で見積もる必要がある。また、EU AI Actやカリフォルニア州法のような規制が進めば、日本企業が海外向けにAIを組み込んだサービスを提供する際にも、評価記録やインシデント報告の説明を求められる可能性がある。外部評価の独立性がどこまで担保されるかは、モデル選定や契約時の確認項目になり得る。
気になる点
- この取り組みに法的な拘束力はあるのか
- 現時点ではAnthropicとOpenAIの自主的なコミットであり、法的義務ではない。カリフォルニア州のSB 53は安全性フレームワークの公開と重大インシデントの報告を、SB 813は州認定の「独立検証機関」の枠組みを定め、EU AI Actも評価の実施・記録と報告を求めているが、いずれもAmodei氏の提案するアクセス範囲より広範ではない。専門家は法制化を求めている。
- 常駐評価者はいつから、何人体制で始まるのか
- 現時点では公表されていない。TechCrunchの繰り返しの質問に対し、どの評価機関と組むのか、いつ常駐するのか、何人を受け入れるのか、どのシステムや情報にアクセスできるのか、何を公開できるのかについて、AnthropicもOpenAIも回答していない。
- 評価の独立性はどうやって担保されるのか
- 研究者らは、企業が公開に合意する透明なフレームワークと、監査人の資格基準の必要性を指摘している。Safer AIのHenry Papadatos氏は、自主的な措置は企業の善意に依存するため、規制による義務化が望ましいと述べている。過去にはFAR.AIが評価プロセスへの統制を強めようとする開発企業との契約を断った例もある。
用語解説
- フロンティアAI
- 最先端の能力を持つ大規模AIモデル、またはそれを開発する企業を指す。
- アラインメント
- AIの目的や振る舞いを、人間の意図や価値に沿うようにすること。
- チェックポイント
- 訓練の途中経過を保存したモデルの中間バージョン。
- 評価認識
- モデルが「今テストされている」と認識する能力。高いとテスト時の挙動が変わり得る。
- NDA
- 秘密保持契約。外部評価者が結果を公開できない原因になる。
- 敵対的テスト
- モデルの弱点を意図的に突く形で行うテスト。
出典
Anthropic and OpenAI want to embed safety evaluators. Will they really be independent?
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