
- StacklokはKubernetes設計者の2氏が設立し、2023年に17.5百万ドルを調達
- Mecatlはエージェントループを実行環境や状態ストアから分離したクラウド前提のハーネス
- ToolHiveとAI GatewayでMCPサーバー運用とアクセス制御を企業向けに提供
ループと実行の分離
米国のStacklokは、AIコーディングエージェントをクラウドで実行・管理するための「クラウドネイティブ・ハーネス」MecatlをGitHub上のオープンソースプロジェクトとして公開した。同社はKubernetesの共同開発者であるCraig McLuckie氏とJoe Beda氏が設立した企業で、2023年にAccel、Madrona、Bain Capitalから17.5百万ドルのシリーズAを調達している。当初はソフトウェアサプライチェーンセキュリティに注力していたが、最近はKubernetesベースのエージェント基盤へと軸足を移した。Mecatlという名称は「MEH-kah-tl」と発音し、アステカ語で綱やロープを意味するという。
もう一つの柱が、MCPサーバーを実行・統治するオープンソースのToolHiveだ。もともとはデスクトップ上のDockerコンテナで動くMCPサーバーを管理する用途から始まり、現在はKubernetesベースのゲートウェイ、レジストリ、MCPサーバー運用を助けるオペレータヘルパーへと拡張されている。Kubernetes上で既に運用している企業が、その環境にエージェントのワークロードを持ち込めるようにする狙いだとMcLuckie氏は説明している。
Kubernetesとの類似
Mecatlの特徴は、エージェントループをクライアント、モデルプロバイダー、状態ストア、実行環境から独立させている点にある。ループ部分は「クラウドでうまく動かせるアプリケーション」だとBeda氏は述べ、ツール呼び出しやbashのような機微な操作、セッション管理やメモリをそれぞれ切り離す設計を採る。セッション状態をディスク上のJSONLファイルとして置くのではなく、管理可能なシステムにネイティブに格納できるようにする考え方だ。
デスクトップ中心のハーネスでは、ループ、ローカル実行、セッション状態が同じプロセス内で始まることが多いとBeda氏は指摘する。仮想マシンやコンテナ、サンドボックス製品でそのままクラウドへ移す「リフト・アンド・シフト」では、エージェントのライフサイクル管理や、人間の入力待ちで安全に一時停止させる「クワイエス(quiesce)」に問題が出やすいという。そこでハーネス自体をクラウドで動く前提で作り直したのがMecatlだとしている。
Beda氏はこの発想を企業のメール運用に例える。従業員が業務中にエージェントと交わしたやり取りは企業に帰属し、メールと同じように管理・統治したいという要求が出てくるとの見方だ。
未公開の点と商用部分
Kubernetesは2014年にGoogleが開発し、コンテナ化されたアプリケーションを大規模に配備・管理するオープンソースシステムとして、クラウドネイティブ時代を切り開いた。Mecatlの設計は、コントロールループでアプリを動かし続け、障害から復旧し、必要に応じて拡張するというKubernetesの考え方に通じる。
Stacklokの動機の一つは、大手テック企業の基盤への依存を減らすことだ。McLuckie氏は、Codex、Claude Code、GitHub Copilotといったフロンティアラボやハイパースケーラーの製品への依存を、Kubernetesがクラウド事業者への依存を和らげたのと同じように減らしたいと述べている。「クラウドネイティブ」とは、特定のクラウド事業者の事情から切り離されたクラウドで動かすことを意味すると同氏は説明する。
Beda氏は、多くのエージェントツールが個人や小規模なスタートアップチーム向けに設計されており、数千人から数万人規模のエンジニア組織にはそのままでは対応しにくいと主張する。Mecatlは単一ユーザーのローカルハーネスを越え、企業が中央で運用できるインフラを目指すという。
エンタープライズ・スパイン
MCPに続く取り組みとして、Stacklokはアクセスとコストを管理するLLMゲートウェイ(サイト上ではAI Gateway)を用意している。ただし現時点でMecatlとToolHiveはオープンソースである一方、AI Gatewayはまだオープンソース化されておらず、Beda氏はロードマップ上にあり近く実現すると述べるにとどまっている。
AI Gatewayは、Gleanの製品とは異なり、タスクに応じてモデルを選ぶ機能は現状持たない。アクセス制御、予算、レポート、プロバイダーのルーティングに焦点を当てており、意味的なルーティングによるモデル選択は、より文脈を持つハーネス側の賢いシステムで行う方がよいというのがMcLuckie氏の説明だ。
顧客は銀行、半導体、通信など比較的規制の強い業界が多いという。ビジネスモデルについてMcLuckie氏は、ToolHiveとMecatlはそれぞれ独立して役立つことを意図しつつ、商用製品としてアイデンティティ、認可、ポリシー、監査を横断的に提供する「エンタープライズ・スパイン(enterprise spine)」を位置づけている。
| 項目 | Mecatl | デスクトップ型ハーネス |
|---|---|---|
| 実行場所 | クラウド | デスクトップ |
| アーキテクチャ | ループ・実行・状態を分離 | 単一または密結合したプロセス群 |
| セッション状態 | 管理可能なシステムに格納 | JSONLファイルとしてディスク上 |
| 想定利用者 | 企業による中央運用 | 個人・小規模チーム |
Why is the agent loop so intricately coupled to the tool calling subsystems? Why is agent identity being reasoned about through the lens of human identity systems?
なぜエージェントのループは、ツール呼び出しサブシステムとこれほど密接に結合しているのか。なぜエージェントのアイデンティティは、人間のアイデンティティ体系を通して考えられているのか。
今後の見通し
StacklokはMecatlとToolHiveをオープンソースで提供しつつ、商用の「エンタープライズ・スパイン」で収益化を狙うとみられる。AI Gatewayのオープンソース化はロードマップにあるとされるが、時期は明らかにされていない。エージェントのループと実行を分離する設計が、実運用で信頼性や隔離性をどこまで改善するかが焦点になる。Mecatlの採用事例や、複数クラスタ・複数クラウドでの運用課題をどう解決したかが示されれば、判断材料が増えるだろう。日本の企業が既存のKubernetes基盤に組み込めるかも、今後の情報公開を待つ必要がある。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
多くの日本企業はすでにKubernetesでクラウドアプリを運用しており、MecatlやToolHiveはその延長線上でAIエージェントを扱える可能性がある。エージェントとのやり取りには企業の知的財産が含まれるため、個人のPCに閉じるのではなく、クラウドで一元管理・監査したいという需要は大きい。Stacklokが顧客として銀行、半導体、通信といった規制産業を挙げている点は、金融や通信を抱える日本企業にも参考になる。一方、日本語対応や国内データ所在、既存のID基盤との統合は現時点で不明であり、導入検討には追加の検証が必要になる。
気になる点
- MecatlやToolHiveは無料で使えますか
- MecatlとToolHiveはGitHub上のオープンソースプロジェクトとして公開されています。商用部分はアイデンティティや認可、ポリシー、監査をまとめる「エンタープライズ・スパイン」で、その具体的な価格体系は原文に記載がありません。
- 既存のKubernetes環境に組み込めますか
- ToolHiveはKubernetesベースのゲートウェイやオペレータヘルパーとして整備が進んでおり、既にKubernetesを運用している企業がエージェントのワークロードを載せることを想定しています。Mecatlもクラウドで動く前提で設計されています。
- 日本語対応や国内データ所在はどうなっていますか
- 原文では日本語対応やデータの所在、地域ごとの運用については触れられておらず、現時点では公表されていないとみられます。導入検討時には別途確認が必要です。
用語解説
- エージェントハーネス
- LLMがツールを呼び出しながらループ実行し、必要な文脈を保持するための基盤ソフトウェア。
- MCP
- Model Context Protocol。AIモデルを外部ツールやデータに接続するための規格。
- コントロールループ
- 目標状態と現状の差を埋めるよう継続的に調整する仕組み。Kubernetesが採用する。
- クラウドネイティブ
- 特定クラウド事業者に依存せず、クラウド環境で動作するよう設計する考え方。
- クワイエス
- エージェントを人間の入力待ちなどで安全に一時停止させること。
出典
Can a Cloud-Native Harness Make Agents Reliable Beyond the Desktop?
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