
- Liquid AIがエッジ向けのオープンな意思決定モデルd1-3Bとd1-omni-600Mを公開
- トークンを生成せず1回の順伝播で回答し、複数の問いをまとめて処理できる
- d1-3BはJetson AGX Thorで1問16ミリ秒、7データセット平均スコア82.9
何が公開されたのか
Liquid AIは、エッジ環境での意思決定に特化したオープンウェイトのモデル「d1-3B」と「d1-omni-600M」を公開しました。どちらも同社のLiquid Foundation Models(LFM、同社の基盤モデル群)を基に構築されています。ブログではd1-3Bを10B未満で最良の意思決定モデルと位置づけ、重みはHugging Faceで配布されています。
d1-3Bはテキストと画像を入力にでき、d1-omni-600Mはテキストと画像、またはテキストと音声の組み合わせを扱えます。d1-omni-600Mは初期研究リリースという位置づけで、今後も開発が続くとされています。デモは「System One Arcade」というHugging Face Spaceで試せるとのことです。
生成モデルとの違い
一般的な生成モデルはトークンを1つずつ生成して文章を作りますが、d1の意思決定モデルはトークンを生成せず、1回の順伝播(forward pass)で答えを返すと説明されています。分類や判定のように、決まった形式で短く答える用途を想定した設計とみられます。
入力に対しては、名前を付けた複数の問いをまとめて投げられます。ブログのコード例では「返金を求めているか(真偽)」「どのチームが対応すべきか(選択)」「緊急度はどのくらいか(段階評価)」を同時に問い合わせています。複数のチケットをまとめて処理するバッチ用のインターフェースも示されています。
ベンチマークと速度
意思決定モデル向けの指標「Decision Index 0.2.1」で、d1-3Bは48.57を記録しました。これは4Bや9Bのモデルを上回るほか、35B-A3BのDecider(47.11)よりも高い値です。パラメータ数が小さいほどエッジで動かしやすいため、この点は実用上の意味が大きいと考えられます。
読解、有害性検出、意図分類、医療QA、言語横断理解の7つの公開データセットでは、d1-3Bが平均82.9で最高、d1-omni-600Mは78.4でDecider 2B(77.1)を4分の1のパラメータで上回りました。速度面ではNVIDIAとの共同評価により、Jetson AGX Thorが16ミリ秒、Jetson AGX Orinが26ミリ秒、Jetson Orin Nanoが50ミリ秒と報告されています。3問を処理しても1問の約1.3倍の時間で済むとされています。
現時点での留意点
視覚と音声のベンチマークは報告されていません。Decision Index v0.3には非公開のvision splitしか含まれておらず、音声の意思決定ベンチマークは現時点で未解決の問題だと説明されています。d1-omni-600Mについては速度の数値も今回のリリースでは示されていません。
利用にはtransformers>=5.14が必要で、モデルが独自のコードを同梱しているためtrust_remote_code=Trueで読み込む手順が示されています。ライセンスの条件や日本語タスクでの精度については原文に記載がなく、確認できません。
| 項目 | d1-3B | d1-omni-600M |
|---|---|---|
| パラメータ数 | 3B | 600M |
| 入力モダリティ | テキストと画像 | テキストと画像、またはテキストと音声 |
| ベースモデル | LFM2.5-VL-3B(デコーダのみ) | LFM2.5-Encoder-350M(双方向エンコーダ) |
| 7データセット平均スコア | 82.9 | 78.4 |
| 速度の公開 | Jetsonで16〜50ミリ秒 | 今回のリリースでは未公開 |
Best decision model under 10B on the Decision Index 0.2.1: d1-3B scores 48.57, ahead of every 4B and 9B model and of Decider 35B-A3B (47.11).
Decision Index 0.2.1において10B未満で最良の意思決定モデル: d1-3Bは48.57を記録し、すべての4B・9BモデルおよびDecider 35B-A3B(47.11)を上回った。
今後の見通し
d1-omni-600Mは初期研究リリースとされており、音声や視覚を含む意思決定の精度が今後公表されるかが注目点です。Decision Index v0.3が非公開のvision splitのみを含む状況が変われば、視覚タスクでの比較が可能になるとみられます。日本語を含む言語横断理解は7データセットの一つに含まれていますが、言語別のスコアは示されていないため、日本語業務での実用性は個別の検証が必要です。ライセンス条件や量子化後の速度、他デバイスでの数値が公開されれば、採用判断の材料が増えると考えられます。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、この発表は「クラウドに送らず端末側で判定する」選択肢が現実味を帯びてきたことを意味します。問い合わせ分類や緊急度判定、モデレーションなど、これまでLLM APIに投げていた定型判断を、Jetsonのような組み込み機器で数十ミリ秒で処理できる可能性があります。通信の往復が不要になるため、レイテンシとAPI従量課金の両方を抑えられ、個人情報や音声を社外に送らない設計も取りやすくなります。一方、決定専用モデルは文章生成や要約には向かず、既存の生成モデルと役割を分ける前提です。音声・視覚の精度や日本語性能、ライセンス条件が不明なため、自社データでのPoCから始める進め方が妥当と考えられます。
気になる点
- 既存のLLMをそのまま置き換えられますか?
- トークンを生成せず1回の順伝播で回答する意思決定専用のモデルで、文章生成や対話そのものを担う用途は想定されていないとみられます。原文でも「高速で構造化された意思決定が必要なとき」に使うよう案内されており、生成モデルとは役割を分けて使う前提と考えられます。
- ライセンスや商用利用の条件はどうなっていますか?
- モデルはオープンウェイトでHugging Faceから入手できますが、原文にはライセンス名や商用利用の可否についての記載がありません。利用条件は現時点では公表されていないと考えるべきです。導入前にはモデルカードなど一次情報の確認が必要になります。
- 動かすにはどのような環境が必要ですか?
- 原文ではtransformers>=5.14とtorch、torchvision、pillowをインストールし、trust_remote_code=Trueで読み込む手順が示されています。速度はNVIDIA GeForce RTX 4090やJetson AGX Thor、Jetson AGX Orin 64GB、Jetson Orin Nanoで測定されています。CPUやApple Silicon向けの数値は原文に記載がありません。
用語解説
- Liquid Foundation Models (LFM)
- Liquid AIが開発する基盤モデル群。生成モデルと意思決定モデルが含まれる。
- Decision Index
- 意思決定タスクの性能を測る指標。記事ではv0.2.1とv0.3が言及されている。
- 順伝播(forward pass)
- ニューラルネットワークが入力から出力を一度に計算すること。
- VLM(視覚言語モデル)
- テキストと画像の両方を扱えるモデル。d1-3Bの土台になっている。
- デコーダのみ/双方向エンコーダ
- 前者は文章生成に向く構造、後者は入力を両方向から読む構造。
- NVIDIA Jetson
- 組み込み・エッジ向けのAIコンピュータシリーズ。AGX Thorなどがある。
出典
Multimodal open d1 decision models for the edge
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