
- Vera Rubinが量産入りし、エージェント全体を処理する基盤へ拡張
- DSX PODでAIファクトリーの現場配備を6か月から14日に短縮
- エージェント向けにOpenShellとAgent Knowledge Foundationを発表
ベルリンで示した欧州戦略
NVIDIAはドイツ・ベルリンのテンポドロームでGTC Berlin 2026の基調講演を開いた。会場周辺では3日間にわたり、エージェントAI、ロボティクス、フィジカルAI、オープンモデル、高速化コンピューティングに関する100以上のセッションが行われる。Huang氏は冒頭で、L'Oréal、Revolut、Spotify、Merck、Vodafone、Zara、Porsche、Nestlé、HSBCといった欧州企業がNVIDIAとAIで協業していると述べた。
同社は欧州各地を巡る1週間のツアーを終えた直後にこの講演を迎えており、欧州の技術エコシステムに約100億ドルを投じ、12,000以上のパートナーと協業しているという。Huang氏はAIを「5層のケーキ」に例え、エネルギー、AIファクトリーと呼ばれる計算基盤、そこから生成されるトークン(モデルが扱う処理単位)、モデル、アプリケーションという積み重ねで捉えた。インターネットにネットワークが、電力に送電網が必要だったのと同じように、モデルより先にインフラが要ると説明している。
AIファクトリーの新しい形
Huang氏は、ハードウェア、システムソフトウェア、CUDA-Xライブラリ、モデルを束ねたフルスタックのAIファクトリーを、AIインフラを構築・運用するためのプラットフォームとして位置づけた。その中核となるVera Rubinは量産段階に入ったといい、モデルや大規模言語モデルだけでなく、AIエージェントの処理全体を担う方向へ計算基盤を広げるとした。
新たに発表したDSX PODは、パートナーがモジュール式のコンテナ内でVera RubinのAIファクトリーを組み上げ、統合と検証を済ませてから納品するリファレンス設計である。現地のユーティリティが整っていれば、現場での配備にかかる期間を6か月から14日へ短縮できるとしている。あわせて示されたDSX AI Factory Platformでは、冷却に使う水を最大100%削減し、同じAI出力を最大30%少ない電力で得られると説明した。
エージェントを隔離する設計
Huang氏はエージェントを、モデル、作業と記憶を統括するハーネス、ハーネスを隔離するサンドボックス、知識、ツールの5要素で説明した。この捉え方では、エージェントは質問に答えるモデルではなく、知識を引き出しツールを通じて行動する存在になる。ファイルやネットワーク、ツールにアクセスできるため、権限は最小限にし、監視すべきだと述べた。
同社の答えが、NVIDIA OpenShellを土台にした「OpenShell Reference Architecture for Safe AI Agents」である。OpenShellはオープンソースでポリシー制御されたランタイムで、エージェントと、その影響が及ぶシステムとの間にカーネルレベルのサンドボックスを置く。エージェントは起動のたびに権限が異なるため、権限付与、ポリシー適用、監視を動的に変える必要があるという。
オープンモデルと知識の接続
NVIDIAは業種別に使えるオープンモデルを並べた。言語向けのNemotron、世界基盤モデルのCosmos、ヒューマノイド向けのGR00T、自動運転向けのAlpamayo、量子・古典ハイブリッド向けのIsing、物理AI向けのEarth-2である。同社はモデルとデータ、再現用のスクリプトを提供し、企業は自社データでポストトレーニングして用途に合わせたモデルを作れる。Huang氏はこれを「ソブリンインテリジェンス」と呼んだ。
続いて発表したAgent Knowledge Foundationは、文書中の非構造データやデータベースの構造化データにエージェントをつなぐためのモデルとライブラリの集合だ。文書の解析、クエリの埋め込み、関連情報の再ランキングを行うNemotronのツール群に加え、構造化データから予測を行う新しいKumoモデルを挙げた。CUDA-Xについては、科学、工学、研究、創作で使われる高速化ライブラリ群と説明し、その基盤上で1100万人以上の開発者が開発しているとした。
応用領域と残る不明点
応用の例として通信、医療、自動車、ロボティクスが示された。通信では10万サイト、約100ギガワットの分散データセンターに言及し、NokiaとともにT-Mobileのネットワークで約8年をかけて初の商用通話を実現したとした。医療ではSiemens HealthineersとAIを使った放射線治療を進め、治療中に患者の体と腫瘍が変化しても追従して照射を調整する仕組みを説明した。自動車ではHyperionプラットフォームをVolvo Carsが採用し、Volkswagenのバン、JLR、Volvo、Mercedes-Benzの次世代車が対応するという。
ロボティクスではIsaac GR00Tを土台にした参照用ヒューマノイド「Agile ONE SN」を発表した。31自由度の機体で、研究者のセットアップ時間を数週間から数日に短縮する狙いがあり、提供は来年が予定されている。最後には、1ペタフロップスの性能と128GBのメモリを持つRTX SparkノートPCを披露し、2016年にOpenAIへ納入したDGX-1と同じ数値でありながら手で持てる大きさだと対比させた。
一方、価格、日本を含む各地域での提供時期、OpenShellのライセンス条件などは今回の講演では明らかにされていない。DSX PODも現地のユーティリティ整備が前提であり、導入効果はサイトの条件に左右されるとみられる。発表の多くは構想とリファレンス設計の段階で、実運用での検証結果は今後の公開を待つ必要がある。
| 項目 | DGX-1(2016年、OpenAI向け) | RTX Spark ノートPC |
|---|---|---|
| 性能 | 1ペタフロップス | 1ペタフロップス |
| メモリ | 128GB | 128GB |
| 持ち運び | 2人がかりで運ぶ必要 | 手で持てるサイズ |
"This is a complete transformation of the world supply chain," Huang said. "This will change the way that people install and build data centers, and hopefully, as a result, velocity goes up."
「これは世界のサプライチェーンの完全な変革です」とHuang氏は述べた。「人々がデータセンターを設置し構築する方法が変わります。その結果として速度が上がることを願っています」
今後の見通し
今回の発表は、AIファクトリーの供給とエージェントの実行基盤という2つの層を同時に押さえる内容だった。DSX PODのように納品形態を変える動きは、データセンターの建設リードタイムを短くし、電力や水の制約が厳しい地域での選択肢になり得るとみられる。一方、14日という短縮幅や消費電力30%削減、冷却水100%削減がどのような条件で測った数値なのかは講演では触れられていない。実際の導入事例や、OpenShellの公開範囲、Agile ONE SNの仕様と価格が明らかになれば、日本企業が採用を判断する材料になると考えられる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとってまず影響が大きいのは、AIファクトリーの調達と構築の単位が変わる可能性がある点です。DSX PODはコンテナ単位で統合・検証済みの状態で届くため、データセンターの設計から運用までの分業の仕方が変わり、SIerやデータセンター事業者は現地作業の前提を見直す必要が出てきます。次に、エージェントを業務に組み込む際の統制が論点になります。権限を最小化し、起動ごとに異なる権限を動的に扱うという考え方は、社内システムと接続するエージェントの設計方針として参考になります。さらに、Nemotronなどのオープンモデルを自社データでポストトレーニングする道筋が示されたことは、日本語や業種特有のデータを持つ企業にとって選択肢を広げます。ただし数値の前提条件や日本での提供時期は未公表で、PoCの計画を立てる際は続報の確認が必要です。
気になる点
- OpenShellは自社のエージェント基盤に組み込めますか
- OpenShellはオープンソースでポリシー制御されたランタイムとして説明されており、エージェントと外部システムの間にカーネルレベルのサンドボックスを置く構成です。NVIDIAはこれを土台にしたリファレンスアーキテクチャを提供します。ただし対応環境やライセンス条件は今回の講演では明らかにされていません。
- DSX PODは日本でも導入できますか
- DSX PODはパートナーがモジュール式コンテナ内で構築・検証して納品するリファレンス設計で、現地のユーティリティが整っていることが前提です。導入には電力や冷却の受け入れ体制の確認が要ります。日本での提供開始時期や対応パートナーは現時点では公表されていません。
- Agile ONE SNの価格はいくらですか
- Agile ONE SNは31自由度の参照用ヒューマノイドで、提供は来年が予定とされています。研究者が使うための機体であり、モジュール式で一部のコンポーネントだけを使うことも可能です。価格や販売方法については今回の講演では言及されていません。
用語解説
- エージェント
- モデルが知識やツールを使い、複数の手順を自分で進める実行主体。本記事ではモデル単体と区別して使う。
- サンドボックス
- プログラムを隔離された環境で動かし、外部への影響を限定する仕組み。
- カーネルレベル
- OSの中核部分で制御する層。ここに隔離機能を置くと、上位のアプリを経由せずに制限できる。
- ペタフロップス
- 1秒あたり1000兆回の浮動小数点演算を表す性能指標。
- リファレンスアーキテクチャ
- 推奨構成をまとめた設計仕様。パートナーはこれを基に製品を組み上げる。
- ポストトレーニング
- 学習済みモデルに自社データで追加学習させ、用途に合わせて調整すること。
出典
GTC Berlin 2026: Live Updates From NVIDIA CEO Jensen Huang’s Keynote
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する