
- OlmoEarth v1.3は年間の衛星時系列から10mピクセルごとに128次元の埋め込みを生成する
- 27の評価のうち20で最高スコア、64次元版でも18で最高と報告
- 学習の計算時間はv1.2の53%、v1の18%で、炭素排出量も削減
- 全球埋め込みはSource Cooperativeで公開、Explorerはログイン不要で利用可能
何が公開されたのか
OlmoEarth開発チームは、衛星画像の埋め込みモデル「OlmoEarth v1.3」を発表した。あわせて、地球全体について年間単位で事前計算した埋め込み(10メートル解像度、64次元と128次元)と、それを地図上で探索・カスタマイズするブラウザツール「OlmoEarth Embeddings Explorer」を公開している。
これまでOlmoEarthの主な使い方は、OlmoEarth Studio上でタスクごとにモデルをファインチューニングし、衛星画像に対して推論して地図を作るという流れだった。この方法ではGPUと、画像をダウンロード・保存するストレージが必要になる。今回のリリースは、その手間を省く選択肢を増やすものと位置づけられている。
モデル重み、事前学習データ、事前学習コードはいずれも公開されており、ライセンスはv1およびv1.2と同じ「OlmoEarth Artifact License」が適用される。Explorerはアカウント登録もセットアップも不要で使えるとしている。
埋め込みで「計算は一度」に
埋め込みとは、モデルが数百万枚の画像から学んだ内容を、再利用可能な数値の集まりとして圧縮したものだ。OlmoEarth v1.3は、レーダー衛星Sentinel-1と、マルチスペクトル衛星Sentinel-2およびLandsatの1年分の時系列データを読み込み、地表の10メートルピクセルごとに128次元のベクトルを1つ生成する。先頭64次元だけでも、より小さな埋め込みとして単独で機能する。
処理の流れは、視覚変換器(Vision Transformer)が衛星データを読み、Attention Poolerが土地のパッチごとに1つのベクトルへ集約し、線形層が128個の数値に削減する、という構成だ。生成された埋め込みの上に小さな分類器を訓練すれば、作物マップや土地被覆マップ、変化解析といったタスクを軽量なモデリング問題として扱える。
事前計算済みの埋め込みはSource Cooperativeで公開されている。基盤モデルや全球規模の埋め込みは生成コストが高いため、全地球分を計算して共有することで、誰もが同じ出発点から分析を始められるようにした狙いが読み取れる。
27の評価で最高スコア
OlmoEarth v1.3の埋め込みは、AlphaEarth Foundations(AEF)とTessera v2を比較対象として、6大陸にまたがる27の評価で検証された。128次元の埋め込みは27件のうち20件で最高スコアを取り、総合でも最上位に位置づけられた。サイズが半分の64次元版でも、27件のうち18件で最高スコアだったと報告されている。
評価の一環として、熱帯農業向けの作物種類ベンチマーク「PLANTEUR」も新たに導入された。分類器がこれまで見たことのない土地への汎化性能が最も高いとされ、ケニアの小規模農家の作物分類、ダッカ西側のレンガ窯の検出、インドネシアの火災被害評価、ペルー・アマゾンの金採掘追跡といった事例が挙げられている。
学習効率の面でも変化がある。OlmoEarth v1.3の学習にかかった計算時間は、直前のv1.2の53%、最初のv1の18%で、炭素排出量はそれぞれ50%、22%だった。ファインチューニング用モデルとしてはv1.2と同等の性能を維持しているという。再現したい場合、ベースモデルの事前学習は最終実行でH100のレンタル費用に換算しておよそ2,720ドルかかるとしている。
ペルー・違法採掘の追跡事例
記事では、ペルーのマドレ・デ・ディオス地域における違法金採掘の追跡例が紹介されている。Amazon ConservationのMAAPモニタリングプログラムによれば、ラ・パンパ周辺の採掘は2017年から2018年にピークを迎え、Tambopata国立保護区の緩衝地帯で1,200ヘクタール以上の森林が失われた。2019年2月のOperation Mercurio作戦で大部分が停止されたが、その後も続いているかが問われてきた。
埋め込みを使えば、モデルを新たに訓練することなく、ピクセルごとのベクトルを年単位で比較できる。2017年から2020年の差分では南東方向へ採掘が広がった場所が浮かび上がり、2020年から2025年の差分では信号の位置が移る。取り締まりの効果が埋め込み上に表れている、というのが記事の説明だ。
ただし2020年から2025年のマップは一様に暗いわけではない。MAAPによれば北西側では小規模な操業が続き、旧採掘地帯も土地の回復に伴って変化し続けている。2026年8月には、検察が採掘がTambopata保護区内部にまで及んだと判断したことを受け、ペルーが海軍のパトロールを保護区に戻したとAP通信が報じたとしている。
現時点での制約と注意点
Explorerの背後にあるアーカイブは10メートル解像度で、年間およそ150テラバイトに達し、陸地と隣接する沿岸水域をカバーする。公開時点で2025年・2024年・2023年が全球を対象とし、2017年から2022年は一部の国のみの提供で、対象範囲は順次拡大予定とされている。どの国が含まれるかの詳細は原文に明記されていない。
各埋め込みには出所の記録が付属し、20キロメートルタイル・年単位で、モデルが読んだSentinel-1、Sentinel-2、Landsatのシーンを公開カタログへのリンク付きで一覧できる。ピクセル単位で元画像までたどれる仕組みだが、あくまで記載されたシーンの範囲内での追跡となる。
性能評価はAEFとTessera v2という2つの比較対象と27の評価に基づくもので、すべてのタスクや地域で優位という主張ではない。また本文で示されているのは主に分類・変化検出系の評価であり、他の用途への適用可否は個別に検証する必要がある。
| 項目 | OlmoEarth v1.3 | 比較の基準 |
|---|---|---|
| 事前学習の計算時間 | v1.2の53%、v1の18% | 過去バージョン(v1.2/v1) |
| 炭素排出量 | v1.2の50%、v1の22% | 過去バージョン(v1.2/v1) |
| 27評価で最高スコアの件数(128次元) | 20件 | AlphaEarth Foundations、Tessera v2 |
| 27評価で最高スコアの件数(64次元) | 18件 | AlphaEarth Foundations、Tessera v2 |
| ファインチューニング性能 | v1.2と同等 | v1.2 |
OlmoEarth's 128-dimensional embeddings score highest on 20 of 27 evals and rank highest overall. The 64-dimensional version, at half the size, still leads on 18 of 27 evals.
OlmoEarthの128次元埋め込みは27件の評価のうち20件で最高スコアを取り、総合でも最上位に位置づけられる。サイズが半分の64次元版でも、27件のうち18件で最高スコアを記録した。
今後の見通し
今後は、Explorerのアーカイブが対象年・対象国をどこまで広げるかが焦点になる。現時点では2023〜2025年が全球、2017〜2022年は一部の国のみで、日本がどの時点で対象に含まれるかは原文からは分からない。また、PLANTEURのような新しいベンチマークが追加され、AEFやTessera v2など競合モデルの新版と比べた位置づけがどう変わるかも注目される。モデル重みとコードが公開されているため、自前のデータで再現・比較検証を行うチームが出てくれば、用途ごとの実力がより明らかになるとみられる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
これまで衛星画像を使った分析は、タスクごとにモデルを訓練し、大量の画像を取得・保存する必要があり、GPUリソースとデータ管理の負担が導入の壁になっていた。今回のように全球分の埋め込みが公開されれば、日本のIT企業や開発者も、自前のGPU環境を用意せずに小規模な分類器の訓練から検証を始められる。まずExplorerで対象地域の見当を付け、必要ならStudioでファインチューニングするという段階的な進め方が現実的になる。農地モニタリング、森林変化、インフラ変化の検出など、衛星データを扱うプロダクトの初期検証コストを下げる可能性がある。一方で、対象年や国が限られる点、SentinelやLandsatに依存する点は、日本国内の案件で使う際に確認が必要になる。ライセンスはOlmoEarth Artifact Licenseで、v1・v1.2と同一だが、商用利用の条件は原典での確認が求められる。
気になる点
- 日本でも使えるのか、日本の衛星データには対応しているか
- 埋め込みは全球規模で計算されているため、日本の陸地も対象に含まれると考えられる。ただし原文が入力として挙げているのはSentinel-1、Sentinel-2、Landsatのみで、日本のALOSなど他衛星への対応は言及されていない。2017〜2022年分は一部の国のみの提供で、日本が含まれるかは明記されていない。
- 利用に費用はかかるか
- 事前計算済みの全球埋め込みはSource Cooperativeで公開されており、Explorerもアカウント登録なしで利用できる。自前でベースモデルの事前学習を再現する場合は、最終実行でH100のレンタル費用がおよそ2,720ドルかかると原文は記載している。
- 既存のGISワークフローに組み込めるのか
- Explorer上で訓練した分類器の結果はGeoTIFFとしてエクスポートできる。特定の期間・モダリティ・解像度が必要な場合はOlmoEarth Studioで同じモデルを実行でき、自前の計算環境で埋め込みを生成するチュートリアルも用意されている。既存ツールとの連携可否は個別の検証が必要だ。
用語解説
- 埋め込み(embedding)
- モデルが画像などから抽出した特徴を、再利用しやすい数値ベクトルとして圧縮した表現。少量のラベル付きデータで分類器を載せ替えられる。
- Vision Transformer
- 画像をパッチに分割し、Transformerアーキテクチャで処理する画像認識モデル。本記事では衛星データの読み取りに使われる。
- Sentinel-1 / Sentinel-2
- 欧州のコペルニクス計画で運用される地球観測衛星。Sentinel-1はレーダー、Sentinel-2はマルチスペクトルの光学画像を取得する。
- Landsat
- 米国が長期運用する地球観測衛星シリーズ。数十年規模のアーカイブを持ち、地表変化の比較に用いられる。
- ファインチューニング
- 事前学習済みモデルを、特定タスク向けのデータで追加学習させること。用途に合わせた精度向上が期待できる。
- GeoTIFF
- 地理座標情報を埋め込んだTIFF形式の画像ファイル。GISソフトウェアで地図として扱える。
出典
OlmoEarth v1.3: State-of-the-art embeddings for the whole planet
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