
- WSE-3Tは1枚44GBのオンチップメモリを持ち、3兆パラメータの重みは1枚には収まらない
- Kimi K3を例に、層の種類に応じて1枚1層または2層を配置し、計59枚で構成する
- 重みは固定したままアクティベーションのみ転送し、各ステージに別リクエストを流して並行処理する
何が示されたのか
Cerebrasはブログ記事「How we deploy Trillion-parameter frontier models on Cerebras」で、ウェハスケールチップ「WSE-3T」上に数兆パラメータのモデルを配備する方法を公開した。単一のWSE-3Tが持つオンチップメモリは44GBで、兆パラメータ級モデルの重みはテラバイト規模になる。そのため1枚には収まらず、複数枚への分割が前提となる。記事では、複数枚に分割して毎秒1000〜2000トークン以上で動かす方法を説明している。
具体例として使われるのが、オープンソースの「Kimi K3」だ。約3兆パラメータを持ち、線形アテンション層69層とdense層(通常の全アテンション層)24層で構成される。記事では、このモデルがTerminal-Bench 2.1で88.3%、BrowseCompで91.2%を記録したと紹介されている。あくまでモデル側のベンチマークスコアとしての言及で、Cerebras上で測定した値かどうかは明記されていない。
1層16GBという前提
まず各層のサイズを見積もる。3兆パラメータをすべて4ビットで保持すると仮定し、これを93層(69+24)で割ると、1層あたり約16GBになる。重みの量子化方式はHugging Face実装に合わせた4ビットと説明されている。
次に、44GBのオンチップメモリに何層載るかを層の種類ごとに決める。dense層は各トークンのキーと値を保持するKVキャッシュ用の領域が要るため、1枚に1層だけ置き、残りをKVキャッシュに充てる。一方の線形アテンション層は文脈長によらず固定サイズの状態しか持たないため、1枚に2層(16GB×2=32GB)を置ける。結果として69層を2で割って切り上げた35枚と、dense層24枚の合計59枚になる。
重みを動かさないパイプライン
Cerebrasのコンパイラが層をウェハ群へ割り当て、ランタイムがトークンの通り道を設定する。ウェハ間でやり取りするのはアクティベーションだけで、RDMA over Ethernetを使い1ホップあたり約2マイクロ秒と説明されている。各層16GBに対して1枚44GBあるため、層を分割せず丸ごと1枚に載せられる点が効いている。重みは動かさず、層の間をアクティベーションだけが流れる。
推論は工場のラインに似ている。ウェハ1が層1〜2を処理して結果をウェハ2へ渡し、ウェハ2が層3〜4を処理する、という具合に最後のウェハが次のトークンを出す。ここで「1リクエストずつ順番に流すなら、各ウェハは待ち時間ばかりになるのではないか」という疑問が出る。記事はこれを否定し、各ステージに別々のリクエストを流してパイプラインを埋めることで、全体を遊ばせないと説明する。
同時実行数と評価軸
同時に処理できるリクエスト数を決めるのは、KVキャッシュに割り当てられるメモリ量だ。dense層を1層載せたウェハでは、44GBから層の16GBを引いた残りがKVキャッシュに使える。256kトークンのリクエスト1件が使うキャッシュ量を求め、残り容量を割ることで同時実行数を見積もる、という考え方が示されている。ただし原文では計算式の結果にあたる具体的な数値が示されていないため、何件まで処理できるかは読み取れない。
記事は、同時実行数やバッチサイズだけでは推論システムの効率は測れないと指摘する。より意味のある指標として挙げているのが、同じ出力生成速度で測った「1メガワットあたり毎秒何トークン処理できるか」だ。電力あたりのトークン処理量という軸で性能を見る姿勢が示されている。
現時点の留意点
記事で示されるのはあくまでKimi K3を例にした構成の説明であり、実際の顧客環境でのスループットや遅延の測定値は記載されていない。1リクエストあたり256kトークンという平均値を前提に置いている点も、実際の利用形態によって変わる条件だ。より大きなモデルにも同じ考え方で拡張できるとしているが、具体的な上限は示されていない。
また、料金や提供地域、既存システムからの移行方法については触れていない。無料APIと営業窓口の案内があるのみで、日本からの利用可否や価格はこの記事だけでは判断できない。
| 項目 | dense層 | 線形アテンション層 |
|---|---|---|
| 1層あたりのサイズ | 約16GB | 約16GB |
| 1ウェハに載せる層数 | 1層 | 2層 |
| KVキャッシュ用の領域 | 必要 | 不要(固定サイズの状態のみ) |
| Kimi K3での層数 | 24層 | 69層 |
| 必要なウェハ数 | 24枚 | 35枚 |
Instead, we keep the entire pipeline full with different requests. Because the model is split into pipeline stages already, each stage can work on a different request at the same time.
代わりに、私たちはパイプライン全体を異なるリクエストで埋めておきます。モデルはすでにパイプラインのステージに分割されているため、各ステージが同時に別々のリクエストを処理できるのです。
今後の見通し
今回の解説は特定モデルを例にした構成方法であり、実運用でのスループットや電力効率の実測値は示されていない。今後、Cerebrasのクラウド上でKimi K3以外のモデルを動かした際の1メガワットあたりのトークン処理量などが公開されれば、GPUベースの推論基盤と比べた優位性を判断しやすくなる。また、KVキャッシュの計算結果や同時実行数の具体値が明らかになれば、1ウェハあたりの実効的な処理能力をより正確に見積もれる。日本企業にとっては、日本語モデルへの適用可否や提供地域・価格が示されるかが判断材料になるとみられる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
大規模モデルの推論コストは、モデルをどこに載せ、どう並列化するかで大きく変わる。今回の解説は、重みをウェハ上に固定しアクティベーションだけを流すという設計を、層の種類ごとのメモリ要件から具体的に積み上げて示した点に意味がある。自社でモデルを配備する際にも、dense層はKVキャッシュ分の余裕が必要で、線形アテンション層は文脈長によらず状態が固定という性質は、GPUクラスタでのメモリ見積もりにもそのまま当てはまる。日本のIT企業が推論基盤を選ぶ際は、同時実行数だけでなく電力あたりのトークン処理量で比較する視点が参考になる。ただし現時点では提供地域や価格が不明で、国内での実運用可否は別途確認が必要だ。
気になる点
- 3兆パラメータのモデルを動かすには、Cerebrasのチップが何枚必要ですか
- 原文の例では、Kimi K3(約3兆パラメータ、線形アテンション層69・dense層24)を59枚のWSE-3Tで構成しています。線形アテンション層は1枚に2層ずつで35枚、dense層は1枚に1層ずつで24枚という内訳です。モデルや量子化の条件が変われば枚数も変わります。
- 同時に何件のリクエストを処理できますか
- KVキャッシュに割ける容量で決まります。dense層を載せたウェハでは44GBから層の16GBを引いた分が使えますが、原文は計算式を示すのみで具体的な件数を記載していません。現時点では公表されていないと考えるのが妥当です。
- この手法はNVIDIA GPUでも同じように使えますか
- 原文はウェハ上の44GBのオンチップSRAMに層を丸ごと載せられることを前提にしています。GPUへの適用可否や同等の構成が可能かについては言及がなく、現時点では不明です。
用語解説
- WSE-3T
- Cerebrasのウェハスケールエンジン。1枚に44GBのオンチップSRAMを搭載する。
- KVキャッシュ
- 文章生成時に過去トークンのキーと値を保持する領域。文脈長に比例して増える。
- 線形アテンション
- 注意機構の計算を線形に抑える方式。文脈長によらず状態が固定サイズになる。
- 4ビット量子化
- モデルの重みを4ビットで表現し、メモリ使用量を圧縮する手法。
- RDMA over Ethernet
- ネットワーク越しにメモリを直接読み書きする転送方式。低遅延化に用いる。
- マイクロバッチ
- パイプラインの各段にまとめて流す小さなリクエスト群。
出典
Cerebras Deploys Trillion-Parameter AI Models
https://cerebras.ai/blog/how-we-deploy-trillion-parameter-frontier-models-on-cerebras
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