
- 米フロンティアモデルと中国製オープンウェイトモデルの性能差は4.4カ月に縮小
- Kimi K3はFable 5に3ポイント差、コストは30%
- 8〜12時間のタスクがクローズド優位の境界、収益シェアは4%対96%
何が報告されたのか
Mozillaは2026年9月15日、オープンソースAIの現状をまとめた報告書「State of Open Source AI」を公開した。米国のテック企業が提供するフロンティアモデルと、中国企業による最高水準のオープンウェイトモデルの性能差は4.4カ月にまで縮まったという。Ars Technicaは公開前に内容の共有を受けている。
オープンウェイトモデルとは、モデルの主要な構成要素を誰でもダウンロードし、自分のコンピューターで実行できるモデルを指す。ただし学習データやデータパイプライン、学習コードといった重要な情報は通常公開されない。これに対し、AnthropicやOpenAIといった米企業は基本的にクローズドなフロンティアモデルを提供しており、すべてを非公開にしたうえで、利用により高い料金を課している。
報告書は、Moonshot AIのKimi K3がArtificial Analysis Intelligence Indexの総合スコアでAnthropicのクローズドモデル「Fable 5」にわずか3ポイント差まで迫り、コストはその30%にとどまるとしている。
タスクの長さで見る性能差
性能差はいくつかの方法で測られている。研究非営利団体METRは、AIモデルの「タイムホライズン」を、人間の専門家が完了するのにかかる時間で測ったタスクの長さのうち、AIが50%の成功率で「確実に」こなせる範囲と定義している。このタイムホライズンは一定のペースで倍増しており、そのペースは時間とともに加速しているという。
現時点で、最高性能のクローズドモデルは、最高性能のオープンモデルが確実に完了できる最長タスクの1.7倍の長さの作業をこなせる。MozillaのCTO、Raffi Krikorian氏は、オープン側が7時間の作業をこなせるならクローズド側は12時間、4カ月後にはオープン側が12時間、クローズド側が20時間程度になると説明している。8〜12時間のタスクが、クローズドにはできてオープンにはまだできない領域にあたる。12時間を超えるタスクを確実にこなせるモデルは一般に存在せず、8時間未満のタスクはどちらでも可能なため、安価なオープンモデルに任せられるとしている。
ただし比較には注意点がある。クローズドなフロンティアモデルは、ツールやメモリにアクセスしてエージェント的な動作をさせるためのソフトウェア層「ハーネス」を自前で備えていることが多く、専用ハーネスが性能を押し上げる場合がある。条件を揃えるため、ベンチマーク企業Vals AIは独自の中立的なハーネスで評価を実施した。Terminal-Bench 2.1では、中国Z.ai(Zhipu AI)のオープンウェイトモデルGLM 5.2が、AnthropicのClaude Opus 4.7および4.8と1ポイント差に入り、完了タスク当たりのコストは約5分の1だった。
コストで見る使い分け
Krikorian氏は、クローズドモデルの割高な料金が正当化されるのは「専門的なプロフェッショナル業務、高強度の検索、長いコンテキスト」の一部だとしている。クローズドモデルに支払うかどうかは、組織単位ではなくワークロード単位の判断だという考え方だ。
クローズドモデルが選ばれる理由として、すぐに使えて「コンプライアンス対応、サポート、説明責任」が付いてくる点を挙げている。一方で、オープンウェイトモデルをうまく運用できる人材を欠く組織は多いと説明する。
実際に、配送企業のDoorDashは定型的な業務にKimiを使い、人間の専門家でも時間がかかる難しいタスクにはFableを残しているという。Mozillaの最初の報告書が7月14日に公開されて以降、オープンモデルの利用は加速している。
収益と集中リスク
オープンモデルの利用は拡大している。AIゲートウェイ兼マーケットプレイスのOpenRouterでは、2026年8月のトークン量上位10モデルのうち8つがオープンウェイトを提供していた。一方で収益では大きく後れを取る。Linux Foundation向けにFrank Nagle氏とDaniel Yue氏が発表した論文では、オープンモデルの収益シェアは4%で、クローズドモデルが96%だった。ただし対象データは2025年5月から9月のもので、Krikorian氏はこの1年で状況が変わり収益も移行したはずだと述べている。
Krikorian氏は「世界で動いているオープンモデルの大半は中国製」と指摘し、中国のラボは米国がAndroidで展開したのと同じ戦略、つまり無償で配りながらその周辺のエコシステムを握る動きを取っていると説明する。同氏が懸念するのは「中国製モデル」そのものよりも、権力の集中のリスクだ。
現時点では最高のオープンモデルは中国に集中し、最高のクローズドフロンティアモデルは米国企業から出ている。同氏は米国と欧州のラボが同じオープンの土俵で競争し、単一の国が世界のデフォルトを決めないようにすべきだと主張する。Linuxのようなオープンソースの歴史が参考になるとして、公共コンピュートプログラムによる完全オープンな参照モデル(スイスの国営コンピュートによるApertusが例)、中立の立場を保つ財団、恩恵を受ける企業の参加、評価・監査インフラを担う慈善事業からなる連合を提唱している。
現時点の注意点
これらの比較には幅がある。ベンチマークのスコアやタスクの時間はハーネスや評価手法に左右され、同じモデルでもサードパーティ製ハーネスでは性能が落ちる場合がある。4.4カ月という数字も、あくまで特定の指標に基づく目安とみられる。
収益シェアの4%対96%は2025年5〜9月時点のデータで、その後の変化は反映されていない。Krikorian氏自身、収益は移行しているはずだとしており、最新の数字が明らかになれば構図の変化を判断できる。
どのオープンモデルをどの業務に割り当てるのが適切か、日本企業が導入する際のコストやデータ管理の条件については、原文では言及されていない。
| 項目 | クローズドフロンティアモデル | オープンウェイトモデル |
|---|---|---|
| 確実にこなせるタスクの長さ(現時点) | 約12時間 | 約7時間 |
| 4カ月後の見通し | 約20時間 | 約12時間 |
| 性能スコア差の例(Kimi K3対Fable 5) | Fable 5が基準 | 3ポイント差 |
| 完了タスク当たりコストの例(GLM 5.2対Claude Opus 4.7/4.8) | Claude Opusが基準 | 約5分の1 |
| 収益シェア(2025年5〜9月) | 96% | 4% |
In four months, the open model handles the 12-hour job, and the closed one handles something around 20.
4カ月後には、オープンモデルが12時間の作業をこなし、クローズドモデルは20時間前後の作業をこなすようになる。
今後の見通し
Mozillaの報告書は、オープンウェイトモデルが定型的な業務の受け皿として広がる一方、8〜12時間規模のタスクではクローズドモデルが優位という構図を示した。METRのタイムホライズンがこれまで通り倍増を続けるなら、この境界は数カ月単位で動くとみられる。Krikorian氏が提唱する公共コンピュートや中立財団による連合が実際に動き出すか、中国以外のラボが同等のオープンモデルを出せるかが、集中リスクを判断する材料になる。収益シェアの最新データも注目点だ。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、モデル選定が「どのベンダーと契約するか」から「業務ごとにモデルを割り当てるか」という設計判断に変わりつつあることを意味する。定型的な処理や8時間未満のタスクをオープンウェイトモデルに回せば、完了タスク当たりのコストを大きく下げられる可能性がある。一方で、オープンウェイトモデルを自社で運用するには推論環境の構築・保守や評価の仕組みが必要になり、人材が足りない組織ではサポート付きのクローズドモデルの方が総コストで有利な場合もある。エージェント用途ではハーネスの違いが性能を左右するため、ベンチマークの数字だけで判断せず、自社のタスクで評価することが重要になる。
気になる点
- 日本の企業でもオープンウェイトモデルを自社の業務に使えるのか。
- モデルの主要な構成要素はダウンロードして自社環境で実行できるため、技術的には可能とみられる。ただしMozillaは、オープンウェイトモデルをうまく運用できる人材が不足している組織が多いとも指摘している。日本での導入事例や対応コストについては原文で触れられていない。
- クローズドモデルに料金を払う価値があるのはどんな業務か。
- Krikorian氏によれば、専門家レベルの業務、高強度の検索、長いコンテキストを扱う場面。タスクの長さで言えば8〜12時間規模が該当し、締め切りがオープン側の追いつきより前に来る場合に払う価値があるという。定型業務は四半期後も続くため、オープン側に回すべきだとしている。
- 4.4カ月という性能差はどのように測ったのか。
- Mozillaの報告書が示した数字で、米国のフロンティアモデルと中国企業の最高水準オープンウェイトモデルの性能差を月数で表したもの。METRのタイムホライズンや、Vals AIの中立的なハーネスによるTerminal-Bench 2.1など複数の指標が併用されている。算出の詳細な定義は原文では明らかにされていない。
用語解説
- オープンウェイトモデル
- モデルの主要な構成要素を公開し、誰でもダウンロードして自社環境で実行できるAIモデル。学習データや学習コードは通常非公開。
- ハーネス
- AIモデルが外部ツールやメモリにアクセスし、エージェントのように動作するためのソフトウェア層。専用のものは性能を押し上げる場合がある。
- タイムホライズン
- METRが定義した指標。人間の専門家が完了するのにかかる時間で測ったタスクのうち、AIが50%の成功率で確実にこなせる長さ。
- フロンティアモデル
- 最先端の性能を持つAIモデル。多くは非公開で提供され、利用に高い料金がかかる。
出典
Exclusive: Paying for frontier AI models buys 4-month head start at 5x the cost
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する