
- 顧客データが見えないため、模擬環境を社内で構築して評価
- 引用の正答率は1回のリリースで70%から99%に改善
- 1万件の契約を表で確認するTabular Reviewを提供
Legoraとは何か
Legoraは、法律事務所向けにAIエージェントを提供する企業です。CTOのJacob Lauritzen氏が、Latent Spaceのポッドキャストで開発と評価の手法を語りました。同社はストックホルムの地下室で、ChatGPTとスウェーデン法、検索ツールを組み合わせた取り組みから始まったとされています。
現在のLegoraでは、弁護士がWord文書の作成・編集、1万件の契約を1つの表でレビューする作業、デューデリジェンス(買収前の契約・資産調査)などをエージェントで支援できます。エージェントは弁護士、顧客、他のエージェントの間の作業調整も担うということです。同社は自社の買収案件のデューデリジェンスにも自社製品を使ったと述べています。
見えないデータの評価
Legoraは、エージェントが弁護士のために行った処理のトレース(実行ログ)を一切読めないといいます。データは法律事務所の顧客に帰属するためです。この制約の中で、どうエージェントを構築しテストするかが中心的な課題となります。
同社では3人のエンジニアと3人の弁護士が、顧客の業務を模したテスト環境を構築しているとされます。これは強化学習で使われる「worlds(世界)」に近い考え方だと説明されています。加えて、トレースを言い換えた上で、失敗を10〜20種類に絞り込むという手法も取られているということです。
引用精度とモデル選択
引用の正答率について、あるリリースで70%だったものが99%に改善した一方、Legora側は何も変更しなかったと述べられています。モデルはすでに法務作業の約60%をうまくこなせる水準に達している、というのがJacob氏の見立てです。
同社は長年、利用者がモデルを選ぶ機能(モデルピッカー)の追加に慎重でしたが、最終的にこれを追加しました。Jacob氏は、FableとOpusは下書きには「おしゃべりすぎる」と感じ、Astraの簡潔な文章を好むと語っています。長い契約書の作成を「検索の問題」と捉えている点も、設計思想として興味深いところです。
Tabular Reviewと構成
特徴的な機能の一つが「Tabular Review」で、100万セル規模のスプレッドシートだと表現されています。業界がその名前まで模倣したとされている点も語られました。弁護士がどう使うか、最初の10行から何が分かるかといった実務的な内容も含まれています。
基盤はすべてAzure上で動かしており、その理由はデータプライバシーだとされています。文字起こしにはElevenLabsを使わないことも言及されました。APIの構築には長く慎重な姿勢を取っており、「エージェント自体をAPIにできるか」という問いを立てているとされます。
現時点の不確実性
Fable、Opus、Astraといったモデル名が具体的にどの製品を指すのかは、原文では明確にされていません。また、法務作業の約60%という数値や引用の70%から99%という改善は、Jacob氏の発言に基づくもので、外部で検証されたものではない点に注意が必要です。
法律事務所のパートナーシップモデルや請求時間(billable hour)、若手弁護士やパラリーガルの仕事がどう変わるかについても議論されていますが、いずれも今後の見通しの域を出ません。モデル提供元が法務ツールを制限するかどうかも、現時点では結論が出ていない論点として挙げられています。
| モデル | 下書きへの評価 |
|---|---|
| Fable | おしゃべりすぎると評価 |
| Opus | おしゃべりすぎると評価 |
| Astra | 簡潔で好ましいと評価 |
Legora can't read a single trace of what its agent does for a lawyer. The data belongs to the law firm's clients. How do you build and test an agent when you can't see its work?
Legoraは、エージェントが弁護士のために行った処理のトレースを一切読むことができない。データは法律事務所の顧客に帰属するからだ。では、その仕事が見えないときに、どうエージェントを構築しテストするのか。
今後の見通し
法務AIの評価は、顧客データを外部に出せない制約の中でどう品質を担保するかが焦点になるとみられます。Legoraは模擬環境づくりとトレースの言い換えでこれに対応していますが、この手法が医療や金融など他の規制産業にも広がるかは今後の事例次第です。モデルが法務作業の約60%をこなせるという見立てがどこまで上がるか、またモデル提供元が法務ツールを制限するかどうかが、次の判断材料になると考えられます。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業・開発者にとって、この事例は「顧客データを読めない状態でAIエージェントの品質をどう測るか」という普遍的な課題へのヒントになります。法務・医療・金融など機密性の高い領域では、実行ログを外部に出せないまま評価する必要があり、Legoraの模擬環境づくりや失敗パターンの類型化は参考になります。また、長い契約書の作成を「検索の問題」と捉える視点や、既定の埋め込み(embedding)を安易に使わないという助言は、RAG(検索拡張生成)を設計する開発者に直接役立つ内容です。モデル選択機能やAPIをめぐる判断も、自社製品の機能設計を考える上での材料になるでしょう。
気になる点
- Legoraは日本でも使えますか?
- 原文ではサービスの提供国について明言されていません。採用はNew York、Stockholm、Londonで行っていると述べられていますが、日本での提供可否は現時点では公表されていないとみられます。
- 顧客データを見られないのに、品質はどう保証するのですか?
- 3人のエンジニアと3人の弁護士が顧客業務を模したテスト環境を作り、トレースを言い換えて失敗を10〜20種類に絞り込む手法を取っているとされます。引用の正答率を70%から99%に改善した事例も紹介されています。
- 既存の法務ツールから移行できますか?
- 移行方法についての具体的な言及は原文にありません。WordアドインやSlackの受付ボットなど既存ツールと接続する機能が挙げられているため、そうした接点からの導入が想定されますが、詳細は公表されていません。
用語解説
- エージェント
- 目標に向けて自律的に複数ステップの作業を実行するAIシステム。ここでは法務文書の作成や契約レビューを行う。
- トレース
- AIエージェントが行った処理の実行ログ。入出力や判断の過程が記録される。
- Tabular Review
- 多数の契約書を表形式で一括確認するLegoraの機能。100万セル規模と表現されている。
- デューデリジェンス
- 企業買収や投資の前に、資産・契約・リスクを調査する作業。
- 埋め込み(embedding)
- テキストを数値ベクトルに変換したもの。検索の基盤になる。Jacob氏は既定の埋め込みを安易に使わないよう助言している。
- Azure
- Microsoftのクラウド基盤。データプライバシーを理由に全処理をここで実行しているとされる。
出典
Building Legal Agents When You Can't See the Data - Jacob Lauritzen, CTO of Legora
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