
- Anthropicのモデル性能向上が1年前の約2倍に加速
- 未公開のモデル3つが過去6か月の間に学習を完了
- 公開版は証拠の大半が黒塗りされ、検証が難しくなる
11週間の社内調査で分かったこと
AI安全性の研究組織METRが、Anthropicの協力を得て社内で11週間の調査を行い、AI研究開発に関する評価報告書を公表しました。報告書によると、Anthropicのモデルの性能は1年前と比べて約2倍の速さで向上しており、減速する兆候はほとんど見られないといいます。ベンチマークスコアは「Anthropicが過去1年で約2年分の歴史的進歩を遂げた」ことを示唆しているとされています。
注目されるのは、この加速が単に計算資源を増やした結果ではないとMETRが「確信している」と述べた点です。10月時点の加速の大部分は「AIによるもの」で、その寄与は時間とともに大きくなっていると分析しています。Slackでの非公式な投票や従業員へのインタビューも、相応の生産性向上を示す裏付けになったと報告書は記しています。
人間の支援から自律へ
現時点では、加速の中心は人間の研究者をAIが支援する形にあります。しかしMETRは「完全自律的な貢献が近い将来により大きな役割を果たす兆候がある」と警告しています。収穫逓減や、さらなる加速を妨げるような明確なボトルネックは確認されなかったとも述べています。
従業員は、Anthropicの社内で最も高性能なモデルを使うことで、AI支援がない場合と比べて平均で約12倍生産的になったと自己申告しました。これは数か月前にMythos 5を使っていた時点の報告の約2倍にあたります。ただし自己申告に基づく数字である点には留意が必要です。
未公開の3モデルと黒塗り
METRは、過去6か月の間にAnthropicが学習を終えながら未公開のままにしているモデルが3つあることも明らかにしました。コードネームはModel 2、Model 3、Model 4で、学習完了はそれぞれ7月、8〜9月、9〜10月とされています。2022年まで遡る「Unreleased 2022」というモデルの存在も確認されたといいます。
AnthropicはMETRに対し、非公開の研究情報やモデル性能データ、従業員インタビューなど多くの情報を提供しました。METRは「当初の想定を超える情報が共有された」と評価しています。ただし無制限のアクセスではなく、データ提供の依頼の一部は拒否され、情報の経路は「比較的狭かった」と報告書は記しています。
さらにAnthropicは、METRの最終報告書から情報を削除する権限を持ち、それを広く行使しました。約100ページの完全版のうち、METRが最も情報量が多いと考える証拠の大半が公開版では黒塗りされています。Anthropicは、公開すると競合に有利になるためだと説明したとされています。
安全性との矛盾を問う声
報告書の公表は、AI安全性の研究者や評論家の強い反発を招きました。Anthropicは安全性と責任ある開発を最も積極的に訴えてきた企業の一つであり、CEOのDario Amodei氏も公の場で開発の減速を呼びかけてきたからです。それにもかかわらず、同社自身がその技術の加速を進めているように見える点が批判の的になっています。共同創業者のSam McCandlish氏はXへの投稿で、黒塗りが多いことを認めつつ、加速の要因を明かすのは商業的に機微で、他社に追随の道筋を与えることになると説明しました。
Apollo ResearchのMarius Hobbhahn氏は、2027年初頭に自己改善に向けた重要な突破が起きるとするシナリオ「AI 2027」の予測より速いペースだと指摘しました。GovAIのAlan Chan氏は、AIによるAI開発の加速に懐疑的な立場の人々が考えを改める契機になると述べています。一方、AI Futures ProjectのDaniel Kokotajlo氏は、他社が速くなることを黒塗りの理由に挙げるのは筋が通らないと批判しました。AnthropicはThe Vergeの質問には答えず、McCandlish氏の投稿を案内したとされています。
| コードネーム | 学習を終えた時期 |
|---|---|
| Model 2 | 7月 |
| Model 3 | 8〜9月 |
| Model 4 | 9〜10月 |
| Unreleased 2022 | 2022年 |
We submitted a ~100-page full report on our assessment to Anthropic. For the public version, Anthropic redacted a majority of the evidence we found most informative
私たちは評価に関する約100ページの完全版報告書をAnthropicに提出した。公開版については、私たちが最も情報量が多いと考える証拠の大半をAnthropicが黒塗りした
今後の見通し
Anthropicは数週間以内に自社の報告書を公表する予定で、黒塗りされた部分の一部が明らかになる可能性があります。ただし完全な開示は見込みにくく、加速の要因を外部が検証できるかは不透明です。METRは完全自律的な貢献が近く拡大する兆候があるとしており、次回の評価で人間の介在度合いがどこまで下がるかが焦点になるとみられます。OpenAIが示した2028年3月という目標時期と照らし合わせ、業界全体のペースを比較できる材料が増えれば判断しやすくなります。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、この報告は「AIがAI開発そのものを加速させる」段階が現実のものになりつつあることを示します。自社の開発工程にAIコーディングエージェントを組み込む際、生産性向上をどう測るかという論点は参考になります。一方、最先端ラボの内部情報が黒塗りされる以上、外部の企業や開発者が性能向上の根拠を自力で検証することは困難です。モデル選定や調達の判断では、ベンダーの主張だけでなく独立評価の有無を確認する姿勢が求められます。日本語での評価データをどう整備するかも、引き続き課題になります。
気になる点
- 公開版の報告書で証拠の多くが黒塗りされているのはなぜですか。
- Anthropicが、公開すると競合の役に立つ情報にあたると判断して削除したためです。共同創業者のSam McCandlish氏は、速度向上の要因を明かすのは商業的に機微で、他社に追随の道筋を与えることになると説明しています。METRは削除された情報の多くは「非常に高レベルな内容」だったとしています。
- 未公開の3モデルは外部から利用できるのですか。
- 現時点では公表されていません。METRの報告書は、Anthropicが過去6か月でModel 2、Model 3、Model 4の学習を終えながら未公開のままにしていると記すにとどまり、公開時期や提供方法には触れていません。日本から使えるかどうかも現時点では不明です。
- METRはAnthropicの内部情報に自由にアクセスできたのですか。
- いいえ。Anthropicは非公開の研究情報やモデル性能データ、従業員インタビューを提供しましたが、無制限のアクセスではありませんでした。METRは「情報の経路は比較的狭く、データ提供の依頼の一部は拒否された」と報告書に記しています。
用語解説
- METR
- AIの能力評価と安全性を研究する非営利組織。今回はAnthropic社内に入り11週間の調査を実施した。
- 再帰的自己改善(RSI)
- AIが人間の介在なしに、より高性能な後継モデルを自律的に開発し続けること。開発の急加速が懸念される。
- ベンチマーク
- モデルの性能を比較するための標準的な評価指標。報告書では過去1年が約2年分の進歩に相当するとされた。
- 黒塗り(レッドアクション)
- 文書の一部を公開前に伏せること。今回はAnthropicが商業機密を理由に自社判断で広く適用した。
- Mythos 5
- 記事中で言及されたAnthropicのモデル名。従業員の生産性に関する自己申告の比較対象として登場する。
出典
Why a new report on Anthropic automating AI development is alarming researchers
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