
- ClaudeとClaude Codeの科学研究セッション207,049件を分野・タスク別に分類
- 計算機科学・数学・統計学で利用が多く、実験系の物理科学や医学は相対的に少ない
- データ分析がClaudeの約3分の1、Claude Codeのほぼ半分。アイデア生成は少ない
20万件のセッションを分析
Anthropicは2026年11月6日、科学研究におけるClaudeの使われ方を調べた研究レポートを公開しました。執筆者はJohannes Hermle氏、Ben Jones氏、Lukas Althoff氏らで、Claude、Claude Code、Claude Scienceの科学利用をプライバシー保護の仕組みを通じて分析しています。対象はコンシューマープラン上の207,049セッションで、内訳はChatとCoworkが128,914件、Claude Codeが78,135件です。
手法の中心は、言語モデルを「分類器」として使う点にあります。各セッションの記録を読み、SciNetと呼ばれる分類体系に沿って分野・サブ分野・研究タスクのラベルを付ける仕組みです。SciNetは7,262のタスク、34分野、318サブ分野で構成されています。
研究チームが保持・分析するのは「化学」「データクリーニング」といったラベルだけで、研究データや仮説、実験手法、未発表論文などの内容は抽出も保存もしないと説明されています。結果は集計値のみで、一定数の異なるアカウントが存在するセルに限って報告されます。
計算を中心とする分野に偏る
Claudeのセッションシェアが大きいのは計算機科学11.9%、工学8.4%、医学7.7%でした。研究者数との対数相関は0.79で、規模の大きい分野ほど利用も多い傾向があります。ただし研究者数だけでは説明できず、形式科学(計算機科学・数学・統計学)や社会科学は分野規模の割に利用が多く、化学など実験室作業の多い物理科学や、診療に時間を割く医学は相対的に少なくなっています。
Claude Codeでは偏りがより強く出ます。研究者数との対数相関は0.62にとどまり、世界の研究者の4.3%を占めるにすぎない計算機科学が、セッションの32.7%を占めました。318のサブ分野で見ると、AI・機械学習は世界の研究者の1.2%にとどまる一方、セッションシェアはClaudeで5.0%、Claude Codeで15.2%に達しています。計算生物学や計算言語学、計算神経科学といった計算系のサブ分野も利用が多く、物理システムを扱うロボティクスも相対的に多いのは、計算手法への依存度が高いためとみられます。
データ分析と執筆への集中
研究タスク別に見ると、データ分析がClaudeのセッションの約3分の1、Claude Codeではほぼ半分を占めます。執筆も主要な用途です。一方で、アイデア生成やデータ収集に使われる割合は小さくなっています。
注目すべきは、付随する研究者調査では回答者がアイデア生成とデータ収集を科学的発見にとって最も重要な作業と位置づけている点です。実際にAIが使われている作業と、研究者が重要だと考える作業にはずれがあることになります。
ただし科学研究向けに設計された専用ツールは、このずれを縮める可能性があります。原文は、Claude Scienceではアイデア生成が利用に占めるシェアがClaudeの約2倍になっていると報告しています。
AIが得意な作業ほど使われる
研究チームは、AIが理論上どれだけ各研究タスクを遂行できるかを示す指標を作成しました。この指標で上位20%に入るタスクは、研究者がそこに費やす時間から予測される量の2〜4倍のClaude利用を集めています。逆に下位20%のタスクはほとんど使われておらず、そこには多くの物理的作業が含まれます。
同じ傾向は分野をまたいでも確認されました。AIが多くのタスクを得意とする計算機科学や統計学のような分野ほど、Claudeの利用が多くなっています。原文はこれを、科学者がAIの最もよく機能する場所でAIを使っている、とまとめています。
生産性への試算と留保
レポートは単純なモデルを使い、AIが研究をどこまで加速しうるかのシナリオを示します。既存のAI能力が広く普及した場合、一部の分野では研究の成果量が2倍になりうるとしています。さらに、AIが物理を伴わない研究作業のすべてを担えると仮定すると、計算機科学や統計学では最大15倍、物理的制約のある化学や生物学といった実験科学では3〜4倍になると試算されています。AIを積極的に使う研究者への調査では、約40%が2030年までにAIモデルが研究プロジェクトを自律的に遂行すると予想しました。
これらはあくまで仮定に基づくシナリオであり、予測ではありません。原文は、人による監督が減ることで危険または非倫理的な研究が進む可能性や、研究者のキャリアや研究のやりがい、知識探求の目的意識が変わりうることも指摘しています。
また分析対象はコンシューマープランのセッションに限られており、法人向けの利用や他社モデルの利用は含まれていません。科学研究におけるAI利用の全体像を示すものではない点には注意が必要です。
| 項目 | Claude(Chat/Cowork) | Claude Code |
|---|---|---|
| 分析対象セッション数 | 128,914件 | 78,135件 |
| 計算機科学のセッションシェア | 11.9% | 32.7% |
| AI・機械学習サブ分野のシェア | 5.0% | 15.2% |
| 研究者数との対数相関 | 0.79 | 0.62 |
| データ分析が占める割合 | 約3分の1 | ほぼ半分 |
If existing AI capabilities are widely adopted, they could double research output in some fields.
既存のAI能力が広く普及すれば、一部の分野では研究の成果量が2倍になりうる。
今後の見通し
今回の分析はコンシューマープランのセッションを対象にしており、同じ手法が法人向けプランや他社モデルに広げられるかどうかが次の焦点になります。分類器によるラベル付けの精度や、分野・タスクの分類が時間とともにどう変わるかも、結果の解釈を左右するとみられます。Claude Scienceのような専用ツールの利用が増えれば、アイデア生成の比率が変わる可能性があり、次回以降の比較で確認できるでしょう。2030年までにAIが研究プロジェクトを自律遂行するという約40%の回答が現実になるかは、数年単位の追跡調査を待つ必要があります。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって重要なのは、AIコーディングエージェントが研究開発の現場で「データ分析とコード」に強く吸着しているという実測値です。Claude Codeではセッションのほぼ半分がデータ分析で、計算機科学が32.7%を占めます。社内のR&Dやデータ基盤の改善にAIエージェントを導入する場合、まず効くのは実装と分析の工程だという示唆になります。一方で、研究者が重要と考える仮説生成には利用が偏っていないため、アイデア出しの工程をAIに任せるには専用ツールやワークフローの設計が必要です。Claude Scienceでアイデア生成の比率が約2倍になるという記述は、汎用チャットと専用ツールをどう使い分けるかを考える材料になります。ただし対象はコンシューマープランで、日本企業の法人利用の実態を示すデータではない点は留意が必要です。
気になる点
- 利用者のプライバシーはどう守られているのか
- 研究チームが保持・分析するのは、分類器が付けた分野やタスクのラベルだけだと説明されています。研究データや仮説、実験手法、未発表論文などの内容は抽出も保存もされません。結果も集計値のみで、一定数の異なるアカウントが存在するセルに限って報告される仕組みです。
- 最大15倍という試算はそのまま信じてよいのか
- これはAIが物理を伴わない研究作業のすべてを実行できると仮定した場合のシナリオで、予測ではありません。現実の能力向上や導入の速さ、分野ごとの制約の置き方で結果は変わります。原文も幅を持たせた試算として提示しており、そのまま実現値として扱うことはできません。
- 日本企業や日本の研究者の利用傾向も分かるのか
- 原文には国・地域別の内訳は示されていません。分野・タスク別の集計と、研究者数に対する相対的な利用の多さが分析の中心です。日本語での利用や日本在住者に限定した分析は現時点で公表されておらず、今後拡張されるかも不明です。
用語解説
- SciNet
- 研究タスクを分類するための体系。7,262のタスク、34分野、318サブ分野で構成され、今回のラベル付けに使われた。
- 分類器(classifier)
- ここでは言語モデルを分類器として使い、セッション記録をあらかじめ定めた分野・タスクのカテゴリに割り当てる役割を指す。
- エージェント型コーディングツール
- 利用者のファイルを直接扱い、コードを書いたり実行したりするAIツール。原文はClaude Codeをこう説明している。
- 形式科学
- 計算機科学・数学・統計学など、実験装置を必要とせず記号や計算を中心に扱う分野。今回最も利用が多い。
- 強化学習
- 繰り返しの試行に対するフィードバックから学習する手法。原文は認知的な作業ほどこれに適するとしている。
出典
AI for scientific discovery: How researchers use Claude
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