
- AnthropicのMythosが量子耐性署名HAWKの攻撃を改善
- 鍵強度を半分に削減、開発者はHAWKを撤回
- AES攻撃も効率化するが、弱体化版のみで実用性は未知
HAWKがNIST評価から撤退
米国立標準技術研究所(NIST)が進める耐量子計算機暗号(PQC)の標準化プロセスで、第3ラウンド評価中だったデジタル署名アルゴリズム「HAWK」が、AnthropicのAIセキュリティモデル「Mythos」による攻撃改善を受け、開発者によって撤回されました。Anthropicは月曜日に結果を発表し、翌日にHAWKの開発者が撤回を表明しています。HAWKは2回のNIST評価を通過しており、この種の欠陥を検出することを目的とした第3ラウンドで、まさにその対象となりました。
HAWKは量子コンピュータによる将来の攻撃に耐えることを目指した署名方式です。今回の発見により、NISTの評価対象から外れる可能性が高まりました。ただし、NISTが最終的にどのような判断を下すかは現時点では明らかにされていません。
Mythosによる攻撃の内容
Anthropicによると、Mythosは約60時間と約10万ドルの計算コストで、暗号に詳しくない研究者の指示のもと、HAWKに対する最良の既存攻撃を改善しました。HAWKの安全性は「格子同型問題」の難しさに基づいていますが、Mythosはこの問題に関する自己同型対称性を発見するための未知の方法を出力し、鍵長を半分に短縮できるようにしました。
同じMythosは、AES暗号に対する「中間一致攻撃」の改善も行いました。攻撃に必要な既知平文の数を従来の約2^105から2^89に減らし、攻撃時間を200倍から800倍短縮できる可能性があります。Anthropicは、Mythosが2つのエージェントをほぼ独立に動かし、最終的に合意に達するまで検証したと説明しています。
成果の評価と限界
この成果は、既存の暗号システムを直ちに破壊するものではありません。原記事では、これらの攻撃は漸進的な改善であり、テストされた暗号は正式仕様よりも弱体化した「チャレンジインスタンス」だったと指摘しています。また、暗号システムの土台となる数学的プリミティブは現時点では安全で、攻撃は実験環境の外では実行不可能とみられます。
HAWKの脆弱性は鍵を2倍にすることで回避できる可能性がありますが、その場合の計算コスト増加により、ML-DSAやFN-DSAといった既存のPQC署名方式と比較して競争力を失います。GoogleのPQC専門家であるSophie Schmieg氏は「この論文によりHAWKは終わった」と述べています。一方、AESへの攻撃は性能向上が確認されたものの、実際のAESではラウンド数が10、12、14と多いため、直接的な脅威にはならないとみられます。
AI支援暗号解析の今後の課題
Anthropicは、言語モデルが多くのバグを発見するため、人間による検証がボトルネックになるとの見方を示しています。しかし、今回の報告では、より広く使われている楕円曲線暗号やRSAへの攻撃改善は示されておらず、Mythosがどの程度優れているのかは明確ではありません。AI支援の暗号解析はまだ未検証であり、ベンダーが利点を誇張する可能性もあります。
それでも、LLMが暗号の脆弱性発見に有意な役割を果たす可能性は高まっています。今回の結果は、AIが学術的な暗号解析のプロセスを変える一歩とみなせるでしょう。ただし、実際の標準化や実運用への影響は、今後の検証を待つ必要があります。
What’s particularly concerning (and so especially ripe for AI) is that the attack does not invent fundamentally new mathematics. It simply extends a bunch of tools that were lying around and well-known, and gets a good result.
特に懸念される(そしてAIにとって特に好適な)のは、この攻撃が根本的に新しい数学を発明したわけではなく、既存のよく知られたツールを組み合わせて良い結果を得たことです。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業・開発者にとって、NISTのPQC標準化は採用判断の重要な指標です。HAWKの撤回により、AI支援の暗号解析が標準化プロセスに影響を与えうることが明確になりました。PQCへの移行を検討する際には、候補アルゴリズムの評価がAIによって加速され、撤回が相次ぐ可能性も考慮する必要があります。また、AESへの攻撃改善は、既存システムのセキュリティマージンを再確認するきっかけになります。今回は弱体化版での実験であり実際の脅威は限定的ですが、今後AIによる暗号解析が進めば、セキュリティ設計の前提が変わる可能性があります。開発者はAI支援ツールを自社のセキュリティ検証に取り入れる戦略も検討すべきでしょう。
用語解説
- PQC
- 量子コンピュータによる攻撃に耐えることを目指した暗号方式の総称。
- デジタル署名
- データが改ざんされていないことと送信者を証明する暗号技術。
- 格子同型問題
- 格子と呼ばれる数学的構造の同型を見つける問題。量子耐性があるとされる。
- 中間一致攻撃
- 暗号鍵を効率的に求める攻撃手法で、平文と暗号文の対応を利用する。
- LLM
- 大規模なテキストデータで学習した言語モデル。ここではAnthropicのClaudeなどを指す。
出典
Mythos attack on 3rd-round PQC algorithm candidate puts it out of commission
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