
- ユーザー履歴をオフラインで処理し、オンライン推論の負荷を抑える2段階構成
- 疎特徴と行動系列を高密度トークン化し、ターゲット広告との相互作用を学習
- Instagramでコンバージョン6%増、Facebookで3%増・クリック3.5%増
発表の背景
Metaのレコメンド基盤は毎日数十億のユーザー操作を処理しており、その時系列情報は広告効果に重要です。従来は、ユーザー行動の系列を扱うモデルと、手作業で設計した疎な特徴を扱うモデルを組み合わせる「ハイブリッド方式」が使われてきました。しかしこの方式は、コンポーネント間で情報が失われる・手動特徴量への依存が残る・スケールに限界があるという問題を抱えています。
今回の発表は、そうした課題を解決するためのアーキテクチャ変更と、学習手法の改善をまとめたものです。具体的には、モデル容量を増やしても実運用の計算資源を比例して増やさずに済む設計を目指しています。
多段階モデルの構成
新しいモデルは「オフラインユーザーモデル」と「オンラインランキングモデル」の2段階に分かれます。オフライン側ではユーザーの長期間の行動履歴を非同期に処理し、ユーザー表現を事前計算してキャッシュします。このとき、ユーザー特徴は広告やコンテキストの特徴と分離され、特定の広告候補に依存しない形になります。
オンライン側では、キャッシュされた表現と最新のユーザーシグナル・広告候補情報を組み合わせて、リアルタイムでランキングを出力します。オンライン側はレイテンシ制約が厳しいため、計算量を抑えつつオフライン側の深い表現を活用できることが特徴です。この分離により、オフライン側のモデル規模を拡張しても、オンライン推論のコスト上昇を抑えられます。
学習技術の改良
もう一つの革新は「高密度トークン化」と「ターゲット認識型マルチヘッドアテンション」です。従来はスパースな特徴を人手で交差させる必要がありましたが、高密度トークン化では、疎な特徴と行動系列を一つの密な語彙空間に統合し、モデルが特徴間の相互作用をデータから直接学習できます。
また、トークン化した特徴と広告候補情報をユーザー行動系列と融合し、各アテンションレイヤーが「評価対象の広告」と「ユーザーの過去行動」の関連を重み付けします。こうした多層のアテンションを安定した分布で積み重ねることで、長い系列をコンパクトな表現に圧縮し、高次の相互作用を捉えられるとしています。
LLM型のスケーリング則
実運用の広告トラフィックで計測したところ、モデルの性能と計算量(FLOPs)の関係が、LLMで知られる対数線形の傾向に従うことが分かりました。これは、テキスト以外の領域でも、計算量を増やせば性能が予測可能に向上する「スケーリング則」が成立することを示します。
記事では、スケーリングを効果的に進めるための4つのレバーも紹介しています。バランスの取れたモデル形状、多段階構成のチューニング、多様な行動種別を含む系列構成、そして創発的なセマンティック特徴の活用です。特に、系列は単一の行動種別より多様な行動を混ぜた方が性能が高いと報告されています。
実績と今後の展望
これらの改良により、Instagramでコンバージョン6%増、Facebookでコンバージョン3%増、広告クリック3.5%増という累積効果を確認したとしています。また、このモデルはMetaの生成AIベースの広告レコメンド基盤「GEM」の中核コンポーネントとされています。
現時点では、論文「LLaTTE」として詳細な技術内容が公開されており、今後の展望として、LLM分野で実績のあるmixture-of-expertsやAdvanced Attentionなどの手法を応用し、さらにスケールを拡大する可能性に言及しています。ただし、具体的なモデルサイズや学習コストなどの詳細は記事では明らかにされていません。
Performance improvements follow a log-linear relationship with respect to compute, with a marked improvement in scaling efficiency over other transformer-based sequence models.
性能の向上は計算量に対して対数線形の関係を示し、他のTransformerベースのシーケンスモデルと比べてスケーリング効率が大きく改善している。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
広告レコメンドやユーザー行動モデリングに携わる企業にとって、Metaの今回の設計は示唆に富む。オフラインでの重い処理とオンライン推論を分離するアーキテクチャは、サービス規模が大きいほどコスト面で有利になる可能性がある。また、手作業の特徴量エンジニアリングに頼らず、データから特徴相互作用を学習する「高密度トークン化」は、推薦系システムの開発負荷を下げる一つの方向性を示している。さらに、非言語領域でもLLM型のスケーリング則が観測されたことは、モデル拡大の計画を立てやすくする上で重要だ。一方で、今回の成果はMetaの広告プラットフォーム固有のデータとインフラに依存する部分もあり、そのまま一般化できるとは限らない。自社のデータ特性と照らし合わせながら適用範囲を見極める必要がある。
用語解説
- シーケンスモデル
- ユーザーの行動履歴を時系列として学習するモデル。行動の順序やタイミングから興味を推定する。
- スケーリング則
- モデルや計算量の増加に伴って性能が向上する関係を表す経験則。LLMで対数線形が知られる。
- 疎な特徴
- 高次元で出現頻度が低いID型の特徴。従来は手作業で交差を設計していた。
- 高密度トークン化
- 疎な特徴と行動系列を密なトークン列に変換し、注意機構が直接処理できるようにする手法。
- マルチヘッドアテンション
- 入力を複数の視点で重み付けするTransformerの機構。複数の関連性を同時に学習できる。
- GEM
- Metaの生成AIを活用した広告レコメンドモデル。Generative Ads Recommendation Modelの略。
出典
From User Sequences to Scaling Laws: A Multi-Stage Architecture for Meta’s Ads Ranking
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