
- セッション履歴を参照して各ツール呼び出しを認可する「時間的ポリシー」を解説
- ゲートウェイ側で実行されるため、エージェント自身が制御を回避できない
- 銀行業務の例で、取引順序や承認、累計額制限などの実装を示す
何が発表されたか
Amazon Web Services(AWS)は2026年8月6日、Amazon Bedrock AgentCoreに「時間的ポリシー(temporal policies)」を追加すると発表した。これはAIエージェントのセッション内で過去に実行されたアクションの並び(トレイジャクトリ)を評価し、現在のリクエストを許可するかどうかを判断する認可機能である。
AgentCore Gatewayの境界で動作するため、エージェント自身のコードの外側でポリシーが強制される。エージェントがどのようにツールを呼び出そうと、ポリシーを傍受したり改変したりすることはできない。これにより、エージェントの予測不能な挙動に対しても、安定したセキュリティ制御を適用できるとしている。
従来の認可の限界
従来のAgentCore Policyは、各リクエストを独立したイベントとして扱い、ステートレスで決定論的なルールに基づいて認可を行っていた。しかしAIエージェントは実行時にツールの呼び出し順序や引数を自律的に決めるため、単体では安全でも、直前のアクションとの組み合わせで危険になるケースが生じる。
記事では具体例として、顧客情報を検索した後に別の口座番号を幻覚して送金する、ループ内で過剰な取引を実行する、同一の保険請求を承認と拒否の両方を行う、といった問題が挙げられている。これらのいずれも、個々の呼び出しはステートレスなチェックを通過するが、トレイジャクトリ全体を見ると重大な問題となる。
仕組みの詳細
時間的ポリシーは、AgentCore Gatewayを通過するトラフィックを対象に動作する。ゲートウェイがModel Context Protocol(MCP)によるツール呼び出しやエージェント間通信、モデル推論呼び出しを単一のエンドポイントで処理するため、これらすべてを同じポリシーで統制できる。リクエストにはセッションIDが含まれ、ポリシーエンジンはセッション内のイベント履歴を参照してALLOWまたはDENYを返す。
セッションはIDとエンドユーザーの識別情報の組み合わせで一意になる。同じセッションIDでも異なるユーザーが使えば別のセッションとして扱われる。また、トレイジャクトリの参照期間は最大24時間で、古いイベントは自動的に削除される。ポリシーが変更された場合は既存セッションが無効化され、常に最新のポリシーとスキーマで評価される。
金融サービスのユースケース
記事では、富裕層向けポートフォリオ管理エージェントを例に、時間的ポリシーの具体的な適用方法を説明している。アドバイザーはクライアント情報の取得、ポートフォリオ読み込み、市況価格の取得、分析、取引実行を行う。これに対し、コンプライアンス要件として、取引前にクライアント情報とポートフォリオの取得を必須にする、取引のportfolio_idを事前の取得結果と一致させる、取得から1分以内の価格を使用する、などが挙げられている。
さらに、1セッションの累計取引額を6万ドルまでに制限する、2万5000ドル超の取引には1回の人間承認を必要とする、同じ証券を損失で買い戻すことを禁止する、15分間アドバイザーの操作がなければ書き込み操作を失効させる、というルールも設定する。これらはすべて、ゲートウェイ上のポリシーだけで実現でき、エージェントのコード変更は不要である。
実装上の注意点
時間的ポリシーの記述には、新しいオープンソースのポリシー言語「Dogwood」を使用する。Dogwoodは既存のCedarポリシーと互換性があり、移行せずにそのまま利用できる。ただし、既存のポリシーエンジンをENFORCEモードからLOG_ONLYモードに変更すると、セキュリティルールが強制されなくなるため、本番環境では推奨されないとしている。
また、すべてのリクエストにセッションIDヘッダー(x-amzn-bedrock-agentcore-policy-session-id)を付与する必要がある。セッションの定義はアプリケーション側で柔軟に決められるが、同時に1セッションで並行する認可リクエストは1つだけなので、セッションのスコープはできるだけ狭くすべきだと述べている。
The question then becomes, how do you enforce authorization rules that account for an agent's session history, in a way the agent cannot circumvent?
では、エージェントが回避できない方法で、エージェントのセッション履歴を考慮した認可ルールをどうやって強制するのか、という問いが生まれる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、AIエージェントを業務に組み込む際のセキュリティ設計が大きく変わる可能性がある。特に金融や保険など、規制の厳しい業界では、エージェントの一連の行動に対して順序や承認、累積リスクの上限を設定できることは、監査対応の面でも実務上の価値が高い。また、エージェントのコードを変更せずにゲートウェイ側で制御を追加できるため、既存システムへの導入障壁が低い。ただし、Dogwoodという新しい言語の習得や、セッション設計の調整が必要になる点には注意が必要である。
用語解説
- トレイジャクトリ
- エージェントのセッション内で実行されたアクションの順序付き履歴。
- 時間的ポリシー
- 過去のイベント履歴を考慮して現在のリクエストの認可を判断するポリシー。
- Dogwood
- エージェントとツールのために設計された新しいオープンソースのガバナンス言語。
- MCP
- Model Context Protocol。AIエージェントがツールを呼び出すためのプロトコル。
- AgentCore Gateway
- Amazon Bedrock AgentCoreが提供する、エージェントのトラフィックを集約するゲートウェイ。
出典
Securing AI agents with temporal policies in Amazon Bedrock AgentCore
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