
- 3月のシリーズAに加え2.5億ドルを追加調達、評価額は23億ドル
- 資金は製造拠点拡大と最大の軌道データセンターStarcloud-3開発に
- Falcon 9退役を見据え、Starshipを含む打ち上げ能力を先行確保
資金調達の事実
スタートアップのStarcloudは、2026年8月に約2.5億ドルの追加資金を調達したと発表しました。3月に完了したシリーズA(1.7億ドル)に続く拡張で、同社の評価額は23億ドルとなります。今回のラウンドはManhattan West Venturesが主導し、NvidiaやCiscoなどが参加しました。
調達した資金は、製造施設を拡大し、最大級の軌道上データセンターとなるStarcloud-3の開発を進めるために使われます。同社はすでに米連邦通信委員会(FCC)に8万8000機の宇宙機の運用許可を申請しており、大規模な衛星群の構築を計画しています。
軌道上AI推論の新展開
Starcloudは現在、Nvidiaのデータセンター向けGPU「H100」を軌道上で運用している数少ない企業の一つで、このGPUを用いてモデルを訓練したのも初めてとされます。今回の資金調達ではNvidiaが2500万ドルを出資しており、同社はNvidiaと共同で宇宙向け専用GPU「Vera Rubin Space-1」の開発を進めています。
2027年には、新型の8キロワット級計算衛星「Starcloud-2」を2機、相乗り打ち上げで軌道に送る計画です。当初は米政府機関向けに軌道上でのAI推論サービスを提供する見込みで、地上のデータセンターと異なる低遅延の処理が期待されています。
打ち上げ市場の難しさ
軌道上データセンターにとって、ロケットの打ち上げ費用と供給確保は最大の課題です。SpaceXは主力のFalcon 9を2028年で退役させる計画で、後継のStarshipはまだ実証段階にあります。Blue OriginのNew GlennやULAのVulcanも定期的な飛行に至っておらず、Rocket LabのNeutronも登場前です。
そのためStarcloudは、早い段階から打ち上げ契約を結ぶ方針を明確にしています。同社は専用のFalcon 9打ち上げを購入する検討や、他のロケット事業者との契約も視野に入れています。CEOのPhilip Johnston氏は「打ち上げ能力を確保することが最大のコストになる」と述べています。
Starshipの不確実性
Starcloudの長期計画はStarshipの成功に依存しています。Starshipが低コストで頻繁に再使用できれば、軌道上データセンターを地上のデータセンターと競争できる価格で構築できる可能性があります。しかし、SpaceXのElon Musk氏は今週、帰還するStarshipの捕捉試験を数カ月延期し、年内または2027年初頭に初めての再飛行を試みると述べました。
同社は2029年にSpaceXの打ち上げ能力を確保できないと厳しい状況になるとみられます。また、宇宙用のVera Rubin Space-1チップはまだ製造されておらず、2028年末頃に打ち上げる計画です。チップの稼働温度と放熱器のサイズ、放射線シールドの配置、ロケット打ち上げ時の振動への耐性などが設計の課題となっています。
We can see what’s coming—we’re going to need to book an enormous amount of launch,
我々には何が来るか見えています。膨大な量の打ち上げを予約する必要があります。
今後の見通し
Starcloudが計画通り2027年にStarcloud-2を打ち上げられるか、Nvidiaと共同開発中の宇宙用チップが2028年に軌道に届くかが、今後の焦点となるでしょう。SpaceXのStarshipが2029年までに高い頻度で再使用できるようになれば、打ち上げコストが下がり、軌道上データセンターの市場は一気に拡大する可能性があります。逆に、Starshipの開発が遅れれば、同社は他のロケットに依存せざるを得ず、コストとリスクが増すとみられます。今後1年ほどの間に、Starshipの試験計画や打ち上げ市場の需給動向が明らかになれば、軌道上データセンターの実現可能性を判断する材料となるでしょう。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、軌道上データセンターは将来のグローバルなAIサービス基盤の一つとなる可能性があります。衛星を活用した低遅延のデータ処理は、現在のクラウド依存の構造に変化をもたらすかもしれません。また、Nvidiaが宇宙向けGPU開発に乗り出したことは、半導体やソフトウェアのエコシステムに影響を与える可能性があります。日本企業が衛星データ処理やエッジAI分野で協業機会を探る際には、Starcloudのような先行企業の技術や戦略を参考にできます。一方で、打ち上げ能力の確保が事業リスクとなる点は、宇宙ビジネス特有の課題として認識しておく必要があります。今後、Starcloudの打ち上げ実績やコスト構造が公開されれば、日本企業の参入判断にも役立つと思われます。
気になる点
- Starcloudはいつ打ち上げを予定していますか?
- 2027年に新型のStarcloud-2を2機、相乗り打ち上げで軌道に送る計画です。当初は米政府機関向けにAI推論サービスを提供する予定で、具体的な時期は未発表です。
- なぜこれほどの資金が必要なのでしょうか?
- 軌道上データセンターには大量の打ち上げが必要で、SpaceXのFalcon 9が2028年に退役する見込みのため、早めに打ち上げ能力を確保する必要があります。また、Starcloud-3のような大型機の開発や製造施設の拡張にも費用がかかります。
- Nvidiaの出資は何を意味しますか?
- Nvidiaは2500万ドルを出資し、宇宙向けGPUの共同開発を進めています。Starcloudが軌道上でH100を運用した実績が評価されたとみられ、宇宙AIインフラの分野でNvidiaが本格的に動き出す可能性を示します。
用語解説
- 軌道上データセンター
- 衛星などの宇宙機に計算設備を搭載し、宇宙空間でデータ処理やAI推論を行う施設です。
- AI推論
- 学習済みのモデルを使って、新しいデータに対して分類や予測などの処理を行うことです。
- 相乗り打ち上げ
- 複数の衛星を1つのロケットに搭載して同時に打ち上げる方式です。費用を抑えられる一方、打ち上げ時期が調整されることがあります。
- H100
- NVIDIA社が開発したデータセンター向けのGPUです。AIの学習や推論に広く使われています。
- Starship
- SpaceX社が開発中の大型完全再使用ロケットです。将来的に低コストで大量の打ち上げができると期待されています。
出典
Starcloud raises $250 million for orbital data centers as launch options dry up
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