
- CPU性能の年率成長が50%超から3%に低下し、専用チップ時代へ
- NVIDIAがGPUで首位、TPUやTrainium、WSEが実戦投入で迫る
- 行列演算とメモリ帯域の壁が、AIチップ設計の核心だ
専用チップの時代が到来
2018年の国際シンポジウムで、ジョン・ヘネシー氏とデビッド・パターソン氏はチューリング賞講演を行いました。その中で彼らは、従来のCPUの性能向上が頭打ちになり、ドメイン特化アーキテクチャ(DSA)の必要性を訴えました。
実際、1980年代には単一スレッドのCPU性能が年間52%伸びていましたが、2018年には3%にまで低下しています。ムーアの法則とデナードスケーリングの終焉が背景にあります。
両氏は「次の10年で新奇なコンピュータアーキテクチャのカンブリア爆発が起きるだろう」と予言しました。この予言は結果的に当たり、今では多くのAI専用チップが登場しています。
実用化されたAIチップ群
現在、実際に導入が進んでいるAIチップは、NVIDIAとAMDのGPU、GoogleのTPU、AmazonのTrainium、Cerebrasのウェハスケールエンジン、GroqのLPUなどです。それぞれ設計思想が異なります。
NVIDIAはGPUを並列コンピューティングの中核に据え、CUDAというソフトウェア基盤で幅広い用途を支える戦略です。一方、AMDもGPUで続き、OpenAIとMetaからそれぞれ6GWの電力コミットメントを得ています。
GoogleのTPUはGeminiの訓練に使われ、今後は最大100万チップ規模でAnthropicにも提供される予定です。Anthropicはまた、100万以上のTrainiumチップでClaudeを動かしています。CerebrasはOpenAIの推論を担当し、GroqのLPUはNVIDIAが200億ドルで買収しました。
NVIDIA GPUの設計思想
NVIDIAは1つのチップに数千のスレッドを載せ、ホストCPUが全体を管理するという設計です。AIの行列演算には専用のTensor Coreを備え、それ以外の活性化関数やノーマライゼーションは通常のCUDA Coreが処理します。
Tensor Coreは世代ごとに進化しており、最新のB200ではFP4や専用のメモリ(TMEM)を搭載し、行列演算の効率を高めています。また、データ移動の負荷を減らすため、DMAエンジンを利用するTMAを導入しています。
性能を左右するメモリ戦略
AIワークロードは、トレーニングと推論の前処理では行列・行列演算(GEMM)になり計算が中心ですが、推論の復号では行列・ベクトル演算(GEMV)になり、メモリ帯域がボトルネックになります。
この「メモリウォール」に対応するため、各チップはデータの配置や移動を工夫しています。NVIDIAはHBMメモリを増やし、キャッシュ層を細かく設計しています。専用チップの選定では、演算性能だけでなく、データがどれだけ速く供給されるかが鍵です。
| 項目 | H100 | B200 |
|---|---|---|
| SM数 | 132 | 148 |
| HBMメモリ | 80 GB HBM3 | 192 GB HBM3e |
| Tensor Core世代 | 第4世代 | 第5世代 |
| サポート精度 | FP8, FP16など | FP4, FP8など |
“the next decade will see a Cambrian explosion of novel computer architectures.”
「次の10年で新奇なコンピュータアーキテクチャのカンブリア爆発が起きるだろう」
今後の見通し
今後もAIチップの多様化は続くとみられます。NVIDIAはGPUのエコシステムを維持しつつ、Groqの技術を取り込んで推論性能を高めるでしょう。一方、GoogleのTPUやAmazonのTrainiumは、特定ワークロードで優位性を発揮し、クラウド市場での存在感を増す可能性があります。次に注目すべきは、実際の電力効率と、メモリ帯域をどう解決するかです。各チップのベンチマークや、ソフトウェアスタックの成熟度が明らかになれば、適切な選択が可能になるでしょう。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、AIインフラの選択はコストと性能に直結します。NVIDIA GPUはCUDAのエコシステムが成熟しており、導入しやすい一方、専用チップは特定のワークロードで高い効率を発揮します。記事で解説されたように、トレーニングと推論のフェーズでボトルネックが異なるため、自社のサービスがどのフェーズに重きを置くかを分析してチップを選ぶ必要があります。また、米国大手クラウド事業者がTPUやTrainiumを大規模に使う事例は、将来のAIインフラの標準を示唆しているかもしれません。開発者は、特定のチップに依存するのではなく、ハードウェアの違いに強いソフトウェア設計を心がけるべきでしょう。
気になる点
- GroqのLPUは現在どうなったのか?
- NVIDIAが200億ドルで買収し、NVIDIAに統合されました。独立した製品としてではなく、NVIDIAの技術やロードマップに取り込まれるとみられます。統合後の具体的な展開は公表されていません。
- CerebrasのWSEはどのような用途に使われていますか?
- 記事によると、CerebrasはOpenAIの推論処理を担当しています。WSEはウェハ全体を1つのチップにするアーキテクチャで、大規模な行列演算を高速に処理できるとされています。
- 日本でもGoogle TPUやTrainiumを利用できますか?
- 記事には日本の利用についての記載がありません。Google TPUはGoogle Cloudを通じて、TrainiumはAWSで提供されていますが、現時点での日本からのアクセス可否は不明です。
用語解説
- GPU
- Graphics Processing Unit。並列計算に特化したプロセッサ。AIの行列演算でも広く使われる。
- TPU
- Tensor Processing Unit。Googleが開発したAI推論・学習向けの専用チップ。シストリックアレイ方式。
- LPU
- Language Processing Unit。Groqが開発した大規模言語モデル向け推論チップ。NVIDIAに買収された。
- WSE
- Wafer-Scale Engine。ウェハ全体を1つのチップとして使うCerebrasの技術。
- Tensor Core
- NVIDIA GPU内の行列演算専用ユニット。高速な行列乗算を行う。
- HBM
- High Bandwidth Memory。GPUなどに使われる高帯域幅のメモリ。
出典
AI Chip Architectures
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