
- 患者の電話予約を音声AIで自動化
- ECSからAgentCoreランタイムへ移行し運用負荷を削減
- 500回のシミュレーションで精度100%を達成
背景と課題
Nateraは、細胞遊離DNA検査を専門とするグローバル診断企業です。がん患者が自宅で採血を受けられるように、採血予約の電話対応を自動化したいと考えました。従来は人間のスタッフが予約を管理していましたが、正確性とスケーラビリティに課題がありました。
患者は電話で本人確認を行い、希望日を3つ伝え、サービス提供場所を指定します。予約調整チームが採血士やベンダーと連携して候補の枠を確定していました。この業務フローを維持しながら、音声対話で完結できる仕組みが必要でした。
AgentCoreを選んだ理由
Nateraは従来、サードパーティのAIプロバイダーとTwilioを組み合わせ、Amazon ECS上で音声対話を運用していました。しかし、コンテナのスケーリングやヘルスチェックなどの運用負担があり、よりマネージドな環境を求めていました。Amazon Bedrock AgentCoreは、エージェントの構築・接続・最適化を可能にするフルマネージドサービスです。
AgentCoreは、組み込みの可観測性を備えています。各リクエストの処理時にトレースを取得し、どのツールが呼ばれ、各ステップにどれだけ時間がかかったかを確認できます。医療現場では正確性と性能が重要であり、問題の特定と修正を迅速に行える点が評価されました。
3つの設計原則
1つ目はデュアルWebSocketブリッジパターンです。テレフォニーとモデル推論の間にオーケストレーション層を置き、それぞれ別のWebSocket接続を維持します。これにより、TwilioをAmazon Connect Healthに、またはモデルを別のものに交換しても、システム全体を再設計せずに済みます。
2つ目はイベント駆動のレイテンシマスキングです。ツール呼び出し中に、文脈に沿ったフィラー応答を並行して生成し、患者に無音を感じさせません。認証APIは平均2.5秒、予約APIは平均4秒かかるため、各ツールのP50値から1秒引いた時点でフィラーを生成します。
3つ目はプログレッシブトラストモデルです。会話の進行に応じて段階的に認証とメモリへのアクセスを強化します。最初から身分証明を要求するのではなく、自然な会話の流れの中で信頼を高めていきます。
ECSからAgentCoreランタイムへの移行
NateraはAmazon ECSからAgentCoreランタイムへ移行しました。これは、エージェントを分離されたマイクロVMで実行するフルマネージドのサーバーレス環境です。移行では、音声オーケストレーションのロジックをコンテナ固有のインフラコードから切り離し、エージェントのエントリーポイントをAgentCoreのハンドラパターンに合わせました。
移行中には、長期間続くWebSocket接続とセッション状態の維持という2つの課題に直面しました。AgentCoreのマイクロVMは呼び出し単位でスコープされるため、接続プールを実装し、セッション状態をAgentCoreのメモリに外部化してアクターIDで管理するようにしました。これにより、コンテナのスケーリングやデプロイの運用負荷が不要になりました。
検証結果と注意点
検証では、500回のエンドツーエンドの通話シミュレーションでツール呼び出し精度100%を達成し、体感レイテンシは7秒未満、1回の通話あたりのコストは0.01米ドル未満でした。これは、フィラー生成とレイテンシマスキングが効果を発揮した結果です。
一方で、このアーキテクチャはオーケストレーションの複雑さが増します。2つのWebSocket接続と並行フィラー生成、セッション管理を慎重に扱う必要があります。単純なQ&Aやテキストのみのエージェントの場合は、ブリッジパターンなしの直接統合で十分な可能性があります。
| 項目 | ECS | AgentCoreランタイム |
|---|---|---|
| 実行モデル | タスクが無期限に実行 | マイクロVMが呼び出し単位でスコープ |
| セッション状態 | コンテナローカルメモリに保持され再起動で消失 | AgentCoreメモリに外部化しアクターIDで管理 |
| 運用負荷 | スケーリングやヘルスチェックの管理が必要 | フルマネージドで不要 |
The team needed to fulfill customer requests with autonomous AI agents at scale, without the burden of managing container infrastructure or scaling configuration.
チームは、コンテナインフラやスケーリング設定の管理という負担なしに、自律型AIエージェントで顧客要求を大規模に処理する必要がありました。
今後の見通し
今後、Nateraはこの音声エージェントをさらに多くの患者サービスに拡張する可能性があります。また、このアーキテクチャパターンは他のリアルタイム音声AIユースケースにも適用できるため、AWS上で同様のシステムを構築する企業にとって参考になるでしょう。次に注目すべき点は、AgentCoreがどのリージョンで正式に利用可能になるか、また他のテレフォニープロバイダーとの連携事例が増えるかどうかです。実際の運用データが公開されれば、コストと精度の長期的な傾向も判断できるようになります。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
この事例は、日本のIT企業が音声AIエージェントを本番導入する際の参考になります。特に、AWSのマネージドサービスであるAgentCoreを使えば、コンテナインフラの運用から解放され、可観測性を備えたエージェントを構築できます。医療や予約業務のように高い正確性が求められる分野では、ツール呼び出し精度100%という結果は魅力的です。また、デュアルWebSocketパターンやレイテンシマスキングといった設計手法は、他の顧客対応システムにも応用できます。ECSからの移行では、セッション状態やWebSocketの扱いに注意が必要ですが、運用工数を削減できる可能性があります。
気になる点
- AgentCoreは日本でも利用できますか?
- 本記事では利用可能なリージョンについて言及されていません。AWSのマネージドサービスとして提供されるため、AWSがサポートするリージョンでの利用が可能とみられますが、正式なリージョン対応状況はAWSの公式情報を確認する必要があります。
- 実際のコストはどのくらいですか?
- 記事では1回の通話あたり0.01米ドル未満と報告されています。ただし、これは検証時の値であり、実際の利用パターンや通話時間によって変動する可能性があります。詳細な料金はAgentCoreの料金体系を確認してください。
- 既存のECS環境から移行する際の注意点は何ですか?
- 主な注意点は、WebSocketのライフサイクルとセッション状態の管理です。AgentCoreのマイクロVMは呼び出し単位でスコープされるため、接続プールの実装や状態の外部化が必要になります。エージェントのエントリーポイントをAgentCoreのハンドラパターンに合わせることも重要です。
用語解説
- Amazon Bedrock AgentCore
- AWSが提供する、エージェントの構築・接続・最適化を可能にするフルマネージドサービス。モデルやフレームワークを柔軟に選べる。
- WebSocket
- 双方向通信を実現するプロトコル。本記事では電話音声のストリーミングとモデル推論の接続に使われている。
- レイテンシマスキング
- 処理中の待ち時間を、文脈に沿ったフィラー応答を生成して隠す技術。無音を避けて会話を自然に保つ。
- マイクロVM
- 隔離された仮想マシン環境。AgentCoreランタイムでは呼び出し単位でスコープされる。
出典
Natera’s intelligent appointment scheduling with Amazon Bedrock AgentCore
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