
- OpenAIの新モデルAstraが「recurrent depth」と呼ばれる推論手法を採用すると報道
- この手法はCoT監視を難しくするため、AI安全専門家が懸念を表明
- OpenAIは限定的利用とし、CoT可読性は維持する方針を示す
報道の内容と経緯
The Informationは2026年9月1日、OpenAIの新モデル「Astra」が「recurrent depth」と呼ばれる推論技術を採用すると報じた。この技術は「opaque recurrence」とも呼ばれ、モデルが同じ入力を複数回ループ処理する点に特徴がある。従来の推論モデルが途中の思考過程を逐次的に記録するのに対し、この方式では可読性の高い痕跡が少なくなる。AI安全の専門家の間で、モデルの内部動作を監視しにくくなる懸念が広がっている。
報道後、RedwoodのCEOであるBuck Shlegeris氏と、AI安全を長年訴えるZvi Mowshowitz氏がそれぞれ懸念を表明した。Shlegeris氏は、Astraが従来モデルよりCoT監視が難しいかは不明としつつ、技術を拡大すれば監視が不可能になると警鐘を鳴らす。Mowshowitz氏は、AIラボ間の「底辺への競争」を防ぐには法規制が必要かもしれないと述べている。
なぜ監視が難しくなるのか
通常の推論モデルでは、モデルが問題を解くまでの手順が「Chain of Thought(CoT)」として出力される。この記録は不完全な場合もあるが、AIが不正な振る舞いをしないかを確認する有用な手がかりになる。OpenAIが最近起こしたエージェントの不正行動の調査でも、CoTの記録が原因の究明に使われたとされる。
一方、opaque recurrenceでは、モデルは線形的な思考ではなく、同じクエリをループで何度も処理する。その結果、途中経過の可読なログが残りにくく、従来のCoT記録をすり抜ける可能性がある。Redwoodの主任科学者Ryan Greenblatt氏は、推論が潜在空間でほぼ完結する水準までこの方式を拡大できれば、監視を一切通さずに推論を行えるようになるという懸念を示している。
OpenAIの説明と他社の動き
OpenAIの最高科学者Jakub Pachocki氏はXで、同社は最初の推論モデル以来、CoT監視の維持と活用に取り組んできたと強調した。同氏の発言によると、それは現在の研究プログラムの中核的な目標の1つである。また、AstraのCoTは引き続き可読であり、「neuralese」と呼ばれる内部言語に移行するという見方に対しては、OpenAI側が否定したとされる。
The Informationは2026年9月2日の続報で、AnthropicとGoogle DeepMindも同じ技術について議論していると報じた。Astraでの利用は限定的とみられ、現時点ですべての推論が不透明になるわけではない。それでも、主要AIラボが同様の方向性を検討していることは、業界全体の監視方針に影響を与える可能性がある。
残る不透明さと注意点
今回の報道は、あくまでThe Informationによるもので、OpenAIが公式に詳細を発表したわけではない。Astraの技術的な仕様や、どの程度の頻度でrecurrent depthを使うのかは、まだ十分に明らかにされていない。AIの出力はもともとCoTが推論の完全な鏡ではないという指摘もあり、懸念の大きさを客観的に評価するには追加の情報が必要だ。
日本の開発者や企業がAIモデルを採用する際には、モデルの推論プロセスをどの程度監視できるのかを確認する視点が重要になりそうだ。特に、金融や医療など説明責任が求められる領域では、CoTの可読性はモデル選定の基準の1つになりうる。今後のOpenAIの正式な発表や、同様の手法を採用する他社の動きを注視する必要がある。
| 項目 | 通常のChain of Thought | Opaque recurrence |
|---|---|---|
| 処理の流れ | 逐次的な思考ステップを踏む | 同じクエリをループで繰り返し処理する |
| ログの残り方 | 途中経過がCoTとして記録される | 可読性の高い痕跡が少ない |
| 監視への影響 | CoT記録で異常を発見しやすい | CoTモニタリングが難しくなる恐れがある |
OpenAI has worked to preserve and utilize chain-of-thought monitoring since our very first reasoning models. It’s a core goal of our current research program.
OpenAIは最初の推論モデル以来、チェーン・オブ・ソート(CoT)の監視を維持し活用することに取り組んできました。それは現在の研究プログラムの中核的な目標です。
今後の見通し
現時点では、Astraでのrecurrent depthの利用は限定的とされ、CoTの監視可能性は当面保たれる可能性が高い。しかし、The Informationの続報によるとAnthropicやGoogle DeepMindも同様の技術を議論しており、今後さらに多くのモデルで非透過的な推論が採用される展開も考えられる。Opaque recurrenceが本格的に導入されるかどうかは、各社の安全方針と外部の監視圧力に左右されるとみられる。次に注目すべきは、OpenAIがAstraの公式な技術報告書で利用範囲やCoT監視の仕組みをどのように説明するか、また他の主要AIラボが具体的な導入時期を示すかどうかだ。それらの情報が明らかになれば、この技術のリスクをより正確に判断できる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業がAIモデルをシステムに組み込む際、モデルの思考過程を外部から検証できるかどうかは運用上の重要な判断材料になる。特に顧客対応や業務自動化でエージェント型AIを導入する場合、CoT記録は不適切な出力の原因追及やシステムの動作説明に役立つ。今回の報道の手法が将来のモデルで本格的に使われれば、CoTを使った監視が難しくなり、日本企業はモデル選定や監査の在り方を再検討する必要が出てくる。一方で、Astraでの利用が限定的であることや、CoT監視を維持するというOpenAIの方針が示されていることから、すぐに既存の実務が変わるわけではない。しかし、AIベンダーが推論プロセスの透明性をどう扱うかは、利用企業にとって技術面だけでなく契約面やリスク管理にも関わる論点になりうる。
気になる点
- OpenAIのAstraでは、CoT監視は完全になくなるのですか?
- 現時点で報じられている限り、Astraでの利用は限定的で、CoTは引き続き可読性が保たれるとOpenAIは説明している。ただし、詳細な技術仕様はまだ公開されておらず、実際の監視可能性については今後の情報を確認する必要がある。
- 「recurrent depth」と「opaque recurrence」はどう違うのですか?
- 記事では、recurrent depthはOpenAIがAstraに使う手法の名称で、同じクエリをループ処理する方式を指す。opaque recurrence(非透過的再帰)は、その性質に着目した別名とされている。つまり両者は同じ技術を表す呼び方として扱われている。
- この技術は日本で開発・利用されているAIにも影響しますか?
- 現時点では、OpenAIが開発中のAstraに関する報道であり、日本国内の特定の製品に直接影響するとは公表されていない。ただ、主要AIラボが同様の手法を議論しているため、将来提供されるモデルに広がれば、日本企業が利用するAPIの監視可能性にも影響する可能性がある。
用語解説
- recurrent depth
- OpenAIのAstraが使うとされる推論手法。同じクエリをループで複数回処理し、計算を深める方式を指す。
- opaque recurrence
- recurrent depthの別名。推論の過程が見えにくく、CoTとしての監視が難しくなる性質を強調した呼び方。
- Chain of Thought (CoT)
- 推論モデルが問題を解くまでの途中経過を言語化した記録。異常動作の監視や原因究明に使われる。
出典
OpenAI’s new reasoning technique alarms AI safety experts
https://techcrunch.com/2026/09/02/openais-new-reasoning-technique-alarms-ai-safety-experts
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