
- ソナー調査で開発者の96%がAI出力を完全には信頼せず、38%がレビューに多くの労力を要すると回答
- Synthesiaではプルリクエスト数が前年比120%増、95%にAI生成コードが含まれる
- 企業は仕様策定、AIエージェントによる一次検査、人のレビューを組み合わせて品質を確保
コード生成の急増とレビュー負荷
AIを活用したコーディングツールは、数分で数千行のコードを生成できるようになりました。その一方で、生成されたコードを検査するレビュー工程が新たなボトルネックになっています。AIコードレビューのスタートアップであるCodeRabbitは、2026年8月に1億4,300万ドルを調達し、評価額は15億ドルに達しました。同社はNvidia、Indeed、BMW Groupなど17,000社を顧客に持ち、週に200万件以上のレビューを実行しているとしています。
AIが生成したコードは、一見すると整っていても、誤った前提やセキュリティ上の欠陥、導入後に発覚する問題を含むことがあります。そのため、生成量の増加はレビュー負担の増加に直結します。ソナー(Sonar)の調査では、共有リポジトリに追加されたコードのうちAI由来とみられる割合は平均42%と推定されました。しかし、開発者の96%はAIの出力が正しく動作するとは完全には信頼しておらず、38%はAI生成コードのレビューには同僚のコードよりも多くの労力が必要だと回答しています。その38%のうち61%は、AIが「正しく見えるが信頼できない」コードをしばしば生成したとしています。
仕様策定とAIエージェントによる事前検査
課題への対応として、コードを生成する前に、何を生成するのかを詳細に定義する方法があります。Amazon Storesのシニアプリンシパルエンジニアであるマクラーレン・スタンリー氏は、Amazonのモバイルショッピングアプリの基盤となる17年分のコードをAIで刷新しています。同氏の70人規模のチームは、1,000人以上の開発者が機能を開発するための土台を保守しています。AIにコードを書かせる現場では、生成前に「仕様(スペック)」を詰める時間が重要になっています。
仕様の記述が不足していると、誤ったコードが大量に生成される恐れがあります。実際、ある指示の欠落が原因で、AIエージェントが誤ったバージョンのSwiftで25,000行を生成し、一度に直せない600件のエラーを生み出した事例がありました。スタンリー氏はコードを破棄して仕様を更新し、エージェントを再起動したところ、15分後には正しく再生成できたといいます。コード生成後の一次チェックにもAIエージェントが使われ始めています。AWSのシニアプリンシパルエンジニアであるデビッド・ヤナチェック氏によると、AWSでは人がレビューする前に、AIエージェントがコードが機能するか、当初の計画と一致するか、セキュリティ上の欠陥がないかを確認する仕組みを導入しています。
人間レビューを残す仕組み
AIエージェントによる事前チェックを導入していても、多くの企業は人間レビューを一定数残しています。非営利ソフトウェア企業Bonterraでは、AIツール導入後、提案された変更が3カ月で3倍になり、レビュー対象のコードは10倍、レビュー時間は3倍に増えました。同社はAIエージェントに、コードと承認済み設計、セキュリティ規則、コーディング基準、アクセシビリティ要件を照合させ、信頼度をスコアとして報告させています。スコアが低い場合や問題が検出された場合、変更は人のレビューに回されます。特に支払いや個人データなど機微な領域のコードは常に人が確認します。
Synthesiaも、人間レビューの優先度を決めるためにAIエージェントを利用しています。エラーメッセージの変更のような低リスクな変更は精査が弱く、顧客データや基幹ビジネスルールを変えるコードは厳しいレビューが必要という基準をエンジニアが設定しています。それでも、人がレビューせずに通る変更は全体の5%未満です。最高技術責任者(CTO)のピーター・ヒル氏は、AIエージェントによるコード生成を完全には信頼できないとの見方を示しています。
逆に、提出者への説明義務を課す企業もあります。Temporalは、開発者がAIエージェントの設計上の選択や異常系の扱いを自分の言葉で説明できない場合、レビュー担当者が変更を却下する「Send Back」ポリシーを運用しています。同社CEOのサマー・アッバス氏は、コードレビューを「モデル出力の未チェックな捨て場」にしないと述べています。
ジュニアエンジニア育成の変化
コードを書くことから、コードを判断することへと開発者の仕事が変わる中で、ジュニア層への教育方法も模索されています。Making Senseでは、AIによる生産性向上が最も大きかったのはジュニアエンジニアでしたが、その一方で自分の手で書いて学ぶ機会が失われる懸念があります。同社のチーフAIアーキテクト、JDライモンディ氏は、コードの意味を理解せずに機械的に承認する「シアター承認」を警告しています。そのためMaking Senseでは、ジュニアをAI出力のチェックだけに置かず、顧客要件の理解や機能設計の判断に関与させています。
IBMでは、AIを使って新卒エンジニアに上級者向けの仕事を早期に任せる試みが進んでいます。AIが実装やテストを支援し、失敗があればジュニアが原因を調べて修正し、上級者が最終承認します。同社のAI・自動化担当ゼネラルマネージャー、ニール・スンダレサン氏は、AIの支援により、かつてシニアエンジニアが担当していた一部のタスクの70〜80%をジュニアが実行できるようになると見込んでいます。
Bonterraでは、かつて新人が学んでいた定型的なコーディング作業をAIエージェントが担うようになったため、ジュニアは経験豊富な同僚と一緒に成果に対して責任を持つ形に変わりました。ジュニアはAIエージェントの指示の出し方や、出力に疑問を呈する方法を学び、最終的な結果に責任を持ちます。同社CTOのタヌジャ・コーレプラ氏は、ジュニアを雇わなくなればシニアは育たないと指摘しています。
I don’t know if we ever get to the point where you can truly trust the agentic generation of code.
エージェントによるコード生成を本当に信頼できる段階に到達できるかどうかは分からない。
今後の見通し
当面は、AIが生成したコードを対象にした多層レビューが各社で続き、運用ノウハウが蓄積されるとみられます。その際、レビュー工程の自動化範囲がどこまで信頼に耐えるかが鍵になります。AIエージェントが設計仕様との照合やセキュリティ検査をどこまで正確に行えるかが定量的に示されれば、企業はどこに人を張り付けるべきかを合理的に決められるでしょう。また、SynthesiaやBonterraのような導入事例で、レビュー時間の変化だけでなく、障害発生率や重複コードの削減効果などが公開されれば、日本企業も自社のAI導入方針を判断しやすくなります。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、AI生成コードのレビュー設計は差し迫った課題です。多くのチームは人手が限られているため、AIツールで生まれた生産性向上が、レビュー待ちの滞留やバグ修正で相殺されかねません。この記事で紹介された仕様策定、AIエージェントによる一次検査、リスクに応じた人間レビューの組み合わせは、人手不足の環境でも応用しやすい対策です。ただし、AmazonやAWSのような大規模環境での知見をそのまま小規模チームに当てはめるのは難しく、自社のシステム特性やリスク許容度に応じた調整が必要です。あわせて、ジュニアエンジニアの採用・育成方針も見直しが求められます。AIにコードを書かせる時代には、仕様を定義し、出力の品質を判断する力が、開発者の価値を決めるからです。
気になる点
- AIが生成したコードにも、人間のレビューは必須ですか?
- 現時点では、多くの企業が何らかの人間レビューを残しています。Synthesiaでは人のレビューを経ずに進む変更は5%未満で、Bonterraは支払い・個人情報など高リスク領域を必ず人が確認します。AIエージェントは一次チェックとして有効ですが、出力の最終責任をシステム側が持つ段階には至っていないとみられます。
- AIにコードを生成させる前に決めるべきことは何ですか?
- Amazon Storesの事例では、生成前に詳細な仕様(スペック)を書くことで事故が防げます。実際、誤ったバージョンのSwiftで25,000行が生成され、600エラーが出た際も、仕様の修正と再起動で15分後に正しいコードを得ています。仕様には、実装すべき機能に加えて、使う言語・バージョンや避けるべき前提条件の明記が必要とみられます。
- AIコードレビュー支援サービスで主流は何ですか?
- 記事ではCodeRabbitが週200万件のレビューを行うとされ、NvidiaやBMW Groupなどで使われています。一方で、AWSやBonterraのように自社のAIエージェントを構築して設計意図やセキュリティ基準と照合する事例も紹介されています。日本の企業がどちらを選ぶべきかは、コード規模やリスク管理の方針に依存します。
用語解説
- コードレビュー
- 変更されたコードの正しさや品質を、同じチームの別の開発者が確認する工程。バグや設計上の問題を早期に発見する目的がある。
- AIエージェント
- 大規模言語モデル(LLM)を基に、タスクの計画・実行・検証を自律的に行うプログラム。コード生成やレビュー補助に使われる。
- 仕様(スペック)
- AIエージェントに生成させる機能の内容や条件を、コードを書く前に定義した設計情報。誤りを防ぐために重要となる。
出典
AI Slop Is Changing How Engineers Review Code
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