
- NYUのバックマスター氏が未解決数学問題に関する3件の証明を発表
- 共同研究者はAnthropic所属、使用モデルはCodexとClaudeの併用
- OpenAIが先に完全証明を得たとの説明を巡り双方が対立
何が発表されたのか
ニューヨーク大学(NYU)の数学教授Tristan Buckmaster氏は火曜日、理論数学における主要な未解決問題の一つに関する予備的な成果を含む、3件の証明を発表した。共同研究者はAnthropicに所属する数学者Levent Alpöge氏である。作業にはOpenAIのCodexとAnthropicのClaudeの両モデルを使い、主にCodexに依存したとされる。
対象となったのは「Navier-Stokes(ナビエ・ストークス)方程式の解の存在と滑らかさ」問題である。これはクレイ数学研究所が提示した7つの「ミレニアム懸賞問題」の一つで、最初に解決した個人またはグループには100万ドルの賞金が用意されている。ナビエ・ストークス方程式は流体力学で広く使われているが、理論的な理解は十分に進んでいない。解決できれば、数理物理学の集合的な理解にとって大きな前進になるとされる。
主張されている経緯
Buckmaster氏は証明を発表する声明の中で、この話には別の側面があると述べた。同氏とAlpöge氏が結果をまとめている最中に、自分たちの進捗に関する情報がOpenAIに渡ったことを知ったという。OpenAIに問い合わせたところ、中心となる問題についてすでに完全な証明を達成したと伝えられたとしている。
ただし、OpenAIがいつこの問題の研究を始めたのか、どれだけ人間が関与したのかを尋ねると、回答はより曖昧になったという。最終的に、最初のプロンプトが送られたのは自分たちの作業情報がOpenAIに届いた後の直近数日だった、という点で合意したとBuckmaster氏は述べている。同氏によれば、チーム全体がこの問題に取り組み、非常に大量の計算資源が使われたという。
Buckmaster氏は、自分たちが選んだアプローチの特異性も指摘する。Feffermanによる問題の定式化のうち選択肢cとdにあたる「滑らかな外力」を通る経路は、LuisとDiegoが開いた道であり、自分とAlpögeが静かに選んだものだとしている。他にこの方向で取り組んでいる人はほとんど知らないといい、モデルに問題文を与えて数日でたどり着ける方向ではないと主張している。
OpenAI側の反論
OpenAIで数学研究を率いるSebastian Bubeck氏は、これらの主張を「虚偽であり扇動的だ」と否定した。同氏はBuckmaster氏の声明後に投稿し、学術的な規範に従って議論に加わったと説明している。さらに、自分を知る人なら学術的な基準が最も重要だと分かっているはずだと述べ、近くより完全な声明を出すとした。
Buckmaster氏は、Alpöge氏がAnthropicに雇用されている点をOpenAI側が問題視したと主張している。Anthropicのための研究として行ったものではないが、競合研究所への所属が摩擦になったとみられ、妥協案としてAlpöge氏のクレジットを外すようBubeck氏に求められたという。同氏は、公開を主張した際にキャリアを台無しにしたいのかといった趣旨の言葉や、強硬な対応を示す言葉があったとも述べている。
Codexの学習データに関する懸念もある。プロジェクトでCodexを広く使ったため、自分の作業の情報がOpenAI自身の取り組みに影响した可能性があるとBuckmaster氏は指摘する。OpenAIはCodexとのやり取りをモデル学習に使う権利を留保しているが、ユーザーはオプトアウトできる。同氏のやり取りで学習したモデルを使えば、同様の問題で同じ成果を再生産し得るとみられる。この点についてOpenAIはコメント要請に応じていない。
現時点で分かっていないこと
Buckmaster氏自身が、OpenAIの証明は見ていないと明言している。モデルが何をどう行ったのか、自分たちのデータが使われたのかも分からないとしている。同氏は誰も非難しておらず、いつ何を告げられ、何を提案されたかを述べているだけだと強調する。
発表された3件の証明の査読状況や、OpenAIが得たとされる証明の詳細は、原文では明らかにされていない。Bubeck氏が予告したより完全な声明の内容が公表されれば、判断材料が増えるとみられる。研究の優先権や競争の作法を巡る議論が、学術界とAI業界の間で再燃する可能性がある。
I do not know whether our data was used. I am not accusing anyone of anything. I am stating what I was told, when, and what was proposed to me.
私たちのデータが使われたかどうかは分からない。私は誰も非難していない。いつ、何を告げられ、何を提案されたかを述べているだけだ。
今後の見通し
Buckmaster氏が発表した証明の内容と、OpenAIが得たとされる完全な証明の詳細は、いずれも現時点で十分に公開されていない。Bubeck氏が予告した完全な声明や、双方の証明の内容が公表されれば、同じアプローチが本当に同じ時期に取られたのかを第三者が検証できるようになる。査読や外部の検証が進めば、この問題の解決にAIが果たした役割の実態も明らかになるとみられる。Codexのやり取りが学習に使われたかどうかについても、OpenAIが説明を出すかどうかが次の焦点になる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業や開発者にとって、この一件はコーディングエージェントの利用ログがどう扱われるかを考える材料になる。原文では、ユーザーがオプトアウトしない限りCodexとのやり取りが学習に使われ得るとされており、機密性の高いコードや研究内容をエージェントに投入する際は、各社の設定と規約の確認が実務上の前提になる。また、AI支援による研究開発では、成果の優先権や貢献の帰属をどう記録するかが新たな論点になり得る。ベンダー間の競争が激しい領域では、同じ課題に複数社が短期間で取り組む状況も想定され、社内での利用記録の管理や、外部との共同研究における情報の扱いをあらかじめ決めておく価値があると考えられる。
気になる点
- 発表された証明は査読を経ているのか
- 原文では、3件の証明のうち主要な未解決問題に関するものは予備的な成果とされており、査読の状況については言及されていない。現時点で査読を通過したかどうかは公表されていないため、数学的に確定した結果として扱うのは早いと考えられる。
- OpenAIが得たとされる完全な証明は公開されているのか
- 原文の時点で、OpenAIの証明が公開されたという記述はない。Buckmaster氏自身が「OpenAIの証明は見ていない」と述べており、Bubeck氏はより完全な声明を近く出すとしている。公開されれば内容の比較が可能になるとみられる。
- Codexでのやり取りはモデルの学習に使われてしまうのか
- 原文によれば、OpenAIはCodexとのやり取りをモデル学習に使う権利を留保しているが、ユーザーはオプトアウトできるとされている。ただし、Buckmaster氏の作業データが実際に使われたかどうかは分かっておらず、OpenAIもこの点にはコメントしていない。
用語解説
- Navier-Stokes方程式
- 流体の運動を記述する偏微分方程式。工学で広く使われるが、解の存在と滑らかさは理論的に未解決のままである。
- ミレニアム懸賞問題
- クレイ数学研究所が2000年に提示した7つの未解決数学問題。解決した人物には各100万ドルが支払われる。
- Codex
- OpenAIが提供するコーディング向けのAIモデルおよびエージェント。本件では証明の組み立てに主に使われたとされる。
- オプトアウト
- サービス側が既定で行う処理(学習データへの利用など)を、ユーザーが設定で拒否すること。
- 予備的な成果
- 査読や外部検証を経ていない段階の研究結果。内容が確定していない可能性を残す表現。
出典
OpenAI fought dirty on career-making math problem, says NYU mathematician
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