
- Agent Modeは4000万人の開発者向けにAmazon Bedrock上で本番運用される
- 可視ツールが約40を超えると選択エラーが増え、170以上から約15に絞る設計に
- 失敗の主因は能力不足ではなくコンテキストの欠如だったとPostmanは報告
Agent Modeとは何か
Postmanは、APIのテスト、ドキュメント作成、APIの探索、実装をAIネイティブな方法で行うための「Agent Mode」を提供している。ユーザーが画面を操作して情報を探すのではなく、エージェントがデータに対して推論する点が従来と異なる。記事によれば、Postmanは11年かけて製品を成長させており、開発者やユーザーはサイドバーやタブをたどって情報を見つける方法を身につけてきた。その前提をエージェント向けに作り直す過程で、APIやユーザー体験に埋め込まれた構造的な思い込みが表面化したという。
Agent ModeはAmazon Bedrock上で動作し、基盤モデル(土台となる大規模言語モデル)へのマネージドなアクセスを利用する。世界的な開発者コミュニティを支えるため、トラフィックは変動が大きくレイテンシに敏感で、急激なバーストが発生する。Postmanは自社でモデル推論基盤を運用することなく、モデル選択の柔軟性やスループット、地理的な処理、コストの制御を保ちながら、この本番ワークロードをスケールさせていると説明している。
ツールスプロールへの対処
Agent Modeでは、エージェントがPostman内部でどう振る舞うかを「ツール」が定義する。初期のチームは、リクエストを開く、1つのフィールドを更新する、特定のメタデータを取得するといった小さく精密な「原子的なツール」を志向していた。この方針は初期の正しさと制御に寄与したが、実際のワークフローは長いツール呼び出しの連鎖を必要とすることが分かった。各ステップが速くても、次の動作の前に毎回モデルへ戻るため、ユーザーには遅く感じられたという。
Postmanの検証では、可視ツールセットが約40を超えたあたりからツール選択のエラーが増加した。存在しないツールを呼ぶ、スキーマは正しいのに引数を誤る、文脈上は誤りだが意味的には妥当に見えるツールを選ぶ、といった事例が起きた。より大きく新しいモデルはこの挙動を減らしたが、なくなりはしなかったとされる。現在のアーキテクチャでは、ルートエージェントがツール埋め込みのベクトルデータベースに問い合わせ、170以上あるツールをリクエストに関連する約15に絞り込み、コンテキストを分離したサブエージェントに渡す。モデルはタスクに必要なツールだけを見る。
スキーマ読み取りとコンテキスト
APIカタログのような製品では、Postmanは複数の狭いビューを単一のクエリツールに統合した。サービスの稼働状況、テスト結果、エンドポイントの応答時間といった構造化データが対象である。基盤となるClickHouseテーブルのスキーマが与えられていれば、エージェントはJOINやWHERE句を含む複雑なクエリを生成できる。記事では、サービスごとのリクエスト数やエラー率、平均レイテンシ、p95レイテンシを集計するSQLの例が示されている。
Postmanは当初、ツールの不足が最大の障壁になると想定していたが、実際には欠落や不完全なコンテキストによる失敗のほうが多かったと報告している。コンテキストとは、ユーザーがPostmanのどこにいて、どのエンティティが有効で、どのような状態が確立済みかをエージェントが理解していることだ。既存のインターフェースのデータモデルをそのまま渡しても有用なコンテキストにはならない。それらは推論ではなく描画とデータ転送のために形作られているためで、Postmanはエンティティごとに専用のコンテキストハンドラを用意し、エージェントに必要な情報へ蒸留する方式を採った。
オブジェクトが増えるにつれて切り詰め(トランケーション)が次の課題になった。リクエストの説明やOpenAPI仕様、リクエストのペイロードなど、ユーザーが生成する終わりのないデータがコンテキストウィンドウを圧迫する。チームは、各ハンドラが個別の切り詰め・展開ロジックを持たなくて済むファイルシステムベースの方式を検討しているという。
Bedrock上での実行と制御
Agent Modeは3つの要素を組み合わせる。Postmanアプリケーション内に置かれ、リクエストの開始や設定変更、コレクションの実行、認証の検査といった最終的な操作を担うクライアント側ツール、エージェントの積極性や不確実性の伝え方、基礎的な製品知識を定義する汎用的なエージェント指示、そしてRAG(検索拡張生成)によるナレッジベースである。全製品領域を静的なプロンプトに書き込むのは現実的ではなく、大半は個々のクエリに関係しないため、実行時にクエリとコンテキストに応じて記事を選ぶ仕組みにしている。
人間による監督は本番設計の一部だ。Agent Modeはアプリケーションの状態を変更する操作の前にユーザーの承認を要求する。エンタープライズの管理者は、基盤となるLLMに到達する前に個人情報を伏せ字化するAmazon Bedrock GuardrailsをAgent Modeのガードレール設定から有効にできる。AWSはBedrockの4つの機能として、Claudeファミリー間のモデル柔軟性、地理的にスコープされたクロスリージョン推論、モデル依存のゼロデータ保持、多層のプロンプトキャッシュを挙げている。対応するAnthropic Claudeモデル間の移動は、新しい統合ではなく主に設定変更で済むと説明されている。
現時点で分かっていないこと
今回の記事では、4つのBedrock機能のうちモデルの柔軟性については比較的詳しく説明されている。一方、地理的にスコープされたクロスリージョン推論、モデル依存のゼロデータ保持、多層のプロンプトキャッシュについては名称と位置づけの言及にとどまり、具体的な設定方法や効果の数値は示されていない。Agent Modeが利用できるリージョン、日本語を含む各言語での品質、料金体系も原文には記載がない。
ツール選択エラーが増える閾値として示された「約40」や、170以上から約15への絞り込みも、Postmanの検証における値であり、他の製品やエージェントにそのまま当てはまる保証はない。記事が示すのは、成熟した製品にエージェントを組み込む際の設計原則であり、導入を検討するチームは自社のツール数とコンテキスト設計を前提に検証する必要がある。
| 観点 | 初期の原子的ツール | 現在の構成 |
|---|---|---|
| ツールの粒度 | 開く・1フィールド更新など小さな操作 | タスクに必要なツールのみ提示 |
| ツール数とエラー | 可視ツールが約40を超えると選択エラー増加 | 170以上から約15に絞り込み |
| データ読み取り | 用途ごとの単機能ツール | ClickHouseスキーマ経由の単一クエリツール |
Treat your tool catalog as part of the context budget. Dynamically scope the tools exposed to the model per task, and decouple “what the agent can do” from “what the UI happens to have open.”
ツールカタログをコンテキスト予算の一部として扱うこと。タスクごとにモデルへ公開するツールを動的に絞り込み、「エージェントが何をできるか」と「UIがたまたま何を開いているか」を切り離すこと。
今後の見通し
AWSとPostmanは、モデルの柔軟性以外の3つのBedrock機能について、設定方法や本番での効果を今後詳しく説明するとみられる。プロンプトキャッシュやクロスリージョン推論がレイテンシとコストをどれだけ改善するかが明らかになれば、大規模なエージェント運用を判断する材料になる。また、ファイルシステムベースのコンテキスト管理が正式に採用されるかどうかは、長いコンテキストを扱うエージェント設計の参考になる。日本企業にとっては、Agent Modeが国内リージョンで利用可能か、データ保持や個人情報の扱いをどう設定できるかが分かった時点で、導入可否を判断しやすくなる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって参考になるのは、エージェントを社内ツールや自社プロダクトに組み込む際の現実的な落とし穴だ。Postmanの報告は、モデル性能やプロンプト設計よりも、ツールの見せ方とコンテキストの渡し方が失敗の主因になり得ると示している。社内APIをエージェントに操作させる場合、ツールを細かく作りすぎると選択エラーが増え、画面表示用のデータモデルをそのまま渡しても推論には使えない。スキーマを持つデータベースには単一のクエリツールを与え、エンティティごとに専用ハンドラでコンテキストを蒸留する設計は自社開発にも応用しやすい。状態を変更する操作にユーザー承認を挟み、個人情報をモデル到達前に伏せ字化する構成も、社内統制の観点で参考になる。
気になる点
- Agent Modeは日本からも利用できますか
- 原文では地理的にスコープされたクロスリージョン推論に触れていますが、対応リージョンの具体名は示されていません。日本国内での提供状況やデータの処理場所は現時点では公表されていないため、導入を検討する場合はPostmanの公式情報で確認する必要があります。
- ツール数が40を超えると本当に精度が落ちるのでしょうか
- 約40という値はPostmanの検証における目安で、すべてのエージェントに当てはまる普遍的な閾値ではありません。原文では、より大きく新しいモデルを使うとエラーは減るがなくなりはしないとされています。対策として、タスクごとに必要なツールだけをモデルに提示する設計が示されています。
- 個人情報を含むデータをエージェントに渡しても大丈夫ですか
- PostmanはAmazon Bedrock Guardrailsを使い、基盤モデルに到達する前に個人情報を伏せ字化する制御を用意しています。エンタープライズの管理者がAgent Modeのガードレール設定で有効にできます。ただし原文は、こうした制御があっても本番のテストと監視は引き続き必要だと述べています。
用語解説
- Agent Mode
- Postmanが提供するAIエージェント機能。APIのテストやドキュメント作成、探索、実装をAIネイティブに行う。
- ツールスプロール
- エージェントに与えるツールが増えすぎ、選択精度や応答速度が落ちる問題。
- RAG(検索拡張生成)
- 外部の知識を検索し、その内容を回答生成に組み込む手法。
- コンテキストウィンドウ
- モデルが一度に扱える入力の長さの上限。ここを圧迫すると推論の質が下がる。
- Amazon Bedrock Guardrails
- 個人情報の伏せ字化など、モデル到達前の入力を制御するBedrockの機能。
- クロスリージョン推論
- 複数のリージョンにまたがって推論を処理する仕組み。地理的な要件への対応に使う。
出典
How Postman runs Agent Mode for 40 million developers on Amazon Bedrock
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する