
- 広告配信の起点を単発のイベントではなく、複数ターンにわたる会話の意図に置いた
- ポストトレーニング済みのLLMがツール呼び出しで検索・ランキング・オークションを実行する
- 回答生成とは別サービス・別モデル・別コードに分離し、広告が回答に影響しない構成にした
発表されたこと
OpenAIは技術ブログで、ChatGPT向けに新たに構築した広告配信システムの設計を説明しました。執筆者は同社のRitendra Datta氏とKarthik Gopalratnam氏で、いずれもMembers of Technical Staffとされています。記事では、従来の広告システムが検索クエリやページ閲覧といった離散的なイベントに反応するのに対し、ChatGPTでは会話の中で意図が形成され、変化していくと指摘しています。
同社は、ChatGPT Adsがローンチから200日足らずで年換算10億ドル相当の売上ラン・レート(年間換算の収益規模)に達し、ローンチ以降10万社以上の広告主がChatGPTで広告を出稿したと述べています。自ら改善を続ける広告システムの立ち上げは従来であれば数年かかるとされていましたが、それを短期間で実現したという位置づけです。
なぜ従来型では難しいのか
従来型の広告リクエストは、ユーザーが検索語を送信する、Webページを開くといった明確なイベントから始まります。システムは候補となる広告を取得し、ランキングし、オークションで価格を決めて表示するという比較的単純な流れです。
一方、ChatGPTの会話では、ユーザーは単一の答えを求める検索語ではなく目標を持って訪れます。旅行の計画、業務用ソフトウェアの選定、住まいの家具揃え、新しい趣味の学習など、やり取りは一度では完結しません。記事では、レースに向けたトレーニング方法を尋ねた会話が数ターン後にシューズの相談へ移る例が挙げられ、最初のメッセージだけに反応すると意図を取り違える可能性があると説明されています。
3つの設計判断
1点目はステートフルな広告セッションです。広告システムは対象となるターンの間、会話の情報を記憶し、更新しながら追従します。リクエストごとに独立して処理する方式では、意図の単純化による誤読、ニーズが固まる前の早すぎる配信、そして毎回のフロー再実行によるコスト増といったリスクがあると同社は整理しています。
2点目は、会話の文脈と背後にある意図を解釈し、広告の選択・ランキング・配信までを担う専用のポストトレーニング済みLLMです。同社はこれを「オーケストレーター」と呼んでいます。3点目は、広告の選択処理をChatGPTの回答生成とは別のサービスとして動かすことです。別モデル・別コードで構成することで、広告が回答に影響しないようにしていると説明されています。
この分離には実務上の利点もあります。ChatGPTは広告システムに依存していないため、広告配信が遅延したり停止したりしても回答生成は影響を受けません。また「広告を出さない」ことが通常の成功結果と位置づけられ、ユーザーと広告主の双方に明確な価値がある場合に限って配信される仕組みだとしています。
オーケストレーターの処理の流れ
オーケストレーターはまず会話を短いテキスト要約に変換し、それをセマンティックな埋め込み(意味を数値で表したもの)に変えます。その埋め込みを使って広告候補を取得し、予算やユーザー設定などの条件で適格性を絞り込み、品質と関連性を評価したうえで、最終ランキングを行います。配置先はチャット応答の末尾で、各広告は適格性と関連性の高い基準を満たす必要があるとされています。
検索クエリの準備では、会話全体を1本の文字列に圧縮するのではなく、意図の異なる側面を複数のクエリとして保持します。記事では、Yosemiteへの2日間の旅行に関する質問と、あるブランドの新製品ラインに関する質問が続く会話を例に、両者が直接つながっていなくても「ハイキング旅行に適した靴」といった形で意図を表現し得ると説明しています。候補取得には近似最近傍探索(ANN)を用いた複数のインデックスが使われ、高速に候補を集める設計です。
現時点で不透明な点
公開された記事は、適格性フィルタを通過した候補のスコアリング段階の説明に入ったところで途切れています。スコアリングの詳細やオークションの設計、効果測定の方法については、この記事だけでは判断できません。
また、配信対象の地域や言語、出稿の窓口、課金や入札の具体的な条件についても、本文からは読み取れません。記事にはキャンペーンのロケール指定に触れた記述はありますが、日本での提供可否は明示されていません。
| 項目 | 従来型の広告配信 | ChatGPTの広告配信 |
|---|---|---|
| 起点となる信号 | 検索クエリやページ閲覧のイベント | 複数ターンにわたる会話の意図 |
| 状態の扱い | リクエスト単位で独立して処理 | 会話をまたぐセッションを保持し更新 |
| 広告選定の主体 | 候補取得・ランキング・オークションの処理群 | ポストトレーニング済みLLMがツール呼び出しで統括 |
ChatGPT Ads reached $1 billion in annualized revenue run rate less than 200 days after launch; now, more than 100,000 advertisers have run ads on ChatGPT since launch.
ChatGPT Adsは、ローンチから200日足らずで年換算10億ドル相当の売上ラン・レートに達しました。現在では10万社以上の広告主が、ローンチ以降ChatGPTで広告を出稿しています。
今後の見通し
次に注目されるのは、今回の記事で途切れているスコアリングとオークションの詳細、そして配信対象地域の拡大です。日本を含む市場でいつ提供されるかが公表されれば、国内の広告主や開発者にとっての実務的な意味が具体化するとみられます。また、パーソナライズを選んだ場合に過去の会話の非センシティブ情報がどう使われるか、その設定UIとデータ管理の方針が明らかになれば、プライバシー面の評価が可能になります。加えて、広告の品質や関連性をどの指標で測っているかが示されれば、会話型インターフェースにおける収益化の再現性を判断する材料になるでしょう。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
会話型インターフェースに収益化を組み込む際の設計パターンが、具体的な形で示された点に意味があります。自社製品にアシスタント機能を持つ日本のIT企業にとって参考になるのは、広告の判断をLLMに任せる部分と、回答生成から切り離す部分を分けている構成です。回答生成と広告配信を別サービス・別モデルにすることで、片方の障害や遅延がもう片方に波及しない可用性の設計になります。また、会話をまたいで状態を持つセッションを前提にすると、リクエスト単位の処理に比べて無駄な再計算を減らせる一方、履歴の保持範囲やパーソナライズ設定の扱いを自社で設計する必要が出てきます。広告主側では、クリックではなく会話の文脈と関連性が選定の中心になるため、入稿クリエイティブや計測指標の見直しが論点になるとみられます。
気になる点
- 広告の有無でChatGPTの回答内容は変わりますか
- 同社は変わらないと説明しています。広告の選択処理は回答生成とは別サービス・別モデル・別コードで動き、ChatGPTのサーバーは通常の回答生成だけを担います。広告配信が遅延・停止しても回答は影響を受けず、広告が出ないことは通常の成功結果と位置づけられています。
- 日本からも出稿や配信の対象になりますか
- この記事では明示されていません。キャンペーンごとに稼働可能なロケールを指定する仕組みには触れられていますが、日本が対象に含まれるかは公表されていないため、現時点では判断できません。
- 出稿の費用や課金方式はどうなっていますか
- 記事には具体的な価格や課金方式の記載はありません。広告の最終選択と価格決定はオークションで行うと説明されているため、入札ベースの仕組みであることは読み取れますが、単価や最低予算などの条件は不明です。
用語解説
- LLM
- 大規模言語モデル。大量のテキストで学習し、文章の生成や解釈を行う機械学習モデル。
- ツール呼び出し
- LLMが外部の関数やサービスを呼び出して処理を実行する仕組み。検索やランキングなどを任せられる。
- ステートフルセッション
- やり取りの途中経過や履歴を保持したまま処理を続けるセッション。ターンをまたいだ文脈の維持に向く。
- 埋め込み(embedding)
- テキストなどの意味を数値の並びで表したもの。意味の近さを計算して候補を探す用途に使う。
- ANN検索
- 近似最近傍探索。大規模な意味インデックスから、完全一致ではなく近い候補を高速に取り出す手法。
- オーケストレーター
- この記事では、広告配信の各処理をツール呼び出しで順に制御する役割のLLMを指す。
出典
How we built ChatGPT’s novel ad stack for user trust and relevance
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する