
- 400人が3日間でマルチエージェント構築を実践
- Amazon Bedrock等の実サービスを研修で活用
- 競争型リーダーボードで効率性も評価
実施に至った背景
AtosはAWSとのパートナーシップのもと、2026年に400人のエンジニアを対象とした「AWS AI League」を開催した。Atosは2025年に強化学習とモデル微調整の分野で同様のAI Leagueを実施しており、今回はエージェント型AI(agentic AI)に領域を広げたものだ。オンラインの講座や教室での講習は基礎を築くものの、実際のビジネス課題にAIを応用するための自信や実務経験を必ずしも与えてくれない、という課題意識があった。
参加者のスキルは事前に把握されており、5%がエージェント型AIの知識なし、25%が基本的な知識あり、50%が理解はあるが実務経験なし、20%が実務経験ありだった。中にはAWSを初めて使う参加者や、プロダクトオーナーやプロジェクトマネージャーなど非技術職も含まれており、一様でないスキルセットの集団を短期間で底上げする試みといえる。
課題とAWSの構成
参加者が取り組んだ課題は、ダンジョンの迷路を自律的に探索して宝に到達するAIエージェントの開発だ。迷路上には挑戦タイル、罠、コインなどが配置され、制限時間と残機が設定される。正解でポイントを得る一方、不正解は残機を減らす。コイン収集や終了時の残機数も得点となり、応答が簡潔なほど高得点になるため、効率性も重視された。
システムはAmazon Bedrockを核とし、Amazon Bedrock AgentCoreでマルチエージェントの実行環境を構成した。AgentCoreのゲートウェイはModel Context Protocol(MCP)によりLambdaの関数呼び出しを中継し、迷路探索では幅優先探索(BFS)、Webスクレイピング、コード実行などを実行する。参加者はこまめなプロンプト作成、ガードレールによる安全対策、そしてAmazon SageMakerでのモデル微調整(RLVR)にも取り組み、開発中の動作確認にはAmazon CloudWatch Logsを利用した。
AI Leagueのイベント設計
AWS AI LeagueはAWS Workshop Studio上で動くターンキー形式の教材で、1日から3日間までの開催枠が選べる。Atosは仕事と両立しやすいように3日間を選び、公式セッションとしてキックオフワークショップ(2時間)、毎日のオフィスアワー(1時間)、ファイナル(1時間)を設定した。それ以外は各自が自律的に作業を進める時間になるため、一般的な集合研修よりも実装に充てる時間を多く確保できる。
通常のワークショップは概念を教えることが中心になるが、AI Leagueは「動作するシステムをリーダーボードの得点という形で評価する」点が特徴だ。競争が参加者の能動性を引き出し、使うサービスもAmazon BedrockやAWS Lambdaなど実務と同じものが選ばれている。研修の枠を超えて、開発したスキルをそのまま顧客のシステムに応用できる形にしている。
参加者が得た学び
運用面での重要な気づきとして、プロンプトはトークン予算との兼ね合いが重要だという点があった。余計なトークンを増やすとスコアが下がるため、簡潔な指示と必要なツール呼び出しだけを行う設計が求められた。エージェントを小さな専門単位に分けるか多機能にまとめるかも、レイテンシ、信頼性、コストのトレードオフとして意識されるようになった。
ガードレールの調整も、過剰にブロックすると本来通すべき入出力を遮り、緩いと不適切な内容を通してしまうという難しさがあった。迷路の経路探索ではスピードやリスク、訪問順序といった実運用同様の判断を迫られる。さらに、CloudWatch Logsで仮説検証をしながら改善した参加者の伸びが大きかったほか、KiroのようなAI開発ツールを問題の文脈ごと使うことで生産性が上がったことが報告されている。
結果と残る論点
イベントの結果、登録データに基づき400人のエンジニアがハンズオンでエージェント型AIを学んだとされる。上位入賞者はカスタム経路探索やガードレール、記憶を持つエージェント、トークン削減のための微調整モデルなど、実際のプロダクト開発と同水準の実装をしていた。社内には顧客案件にエージェント型AIを適用できる人材が育ち、自信を持って取り組める体制が整ったという。
一方、公開情報は主催者側の視点に基づくものが中心で、研修の費用対効果や参加者のその後のパフォーマンスへの影響は定量的に示されていない。AWS AI Leagueの一般企業向け提供条件や日本での利用可否も明らかではないため、他社が導入する際はこれらの点を個別に確認する必要があるだろう。
Academic learning gives you the foundation, but the AWS AI League puts it under pressure in a way that genuinely changes how you think.
学術的な学びは基礎を与えるが、AWS AI Leagueは時間的圧力のもとでそれを使わせるため、考え方を真に変化させてくれる。
今後の見通し
Atosは複数地域にSovereign Agentic AI Studiosを設立する方針を表明しており、今回育成した人材をその中核として配置する可能性がある。ただし、この記事で示されたのは研修直後の成果であり、エージェント型AIを顧客環境で継続的に運用した際の品質や生産性のデータはまだない。今後、研修参加者のプロジェクト適用後の成功率や、AI Leagueの開催費用・日本での提供可否が明らかになれば、類似の取り組みを検討する企業にとって判断材料が揃うだろう。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本でもエージェント型AIの実用化が進むにつれ、単なる生成AIの操作研修ではなく、AWS上で複数のツールやエージェントを組み合わせて動かすスキルが求められている。今回の事例は、400人規模の技術者を競争型のイベントで育成し、しかも使用するサービスが本番環境と同じである点で参考になる。特に、プロダクトオーナーやプロジェクトマネージャーが参加していたことは、開発者以外の役割にもAIリテラシーが必要になることを示唆している。日本企業が同様の研修を企画する場合、AWSのサービス利用料と人材の時間確保をどう見積もるか、イベント後のフォローをどう設計するかが成果を左右するだろう。
気になる点
- 非技術職の社員も参加できるのか?
- 記事の参加者には、AWSを初めて使うエンジニアや、プロダクトオーナー・プロジェクトマネージャーといった非技術職が含まれていた。キックオフワークショップでAWSサービスや形式の説明を受ける構成のため、前提知識がある程度異なっていても、サポートを得ながら参加したようだ。ただし企業によって参加条件を変えられるかは記載がない。
- AWS AI Leagueの所要時間と準備のハードルは?
- AWS Workshop Studioを利用し、1日から3日間の範囲で開催できる。Atosは3日間を選び、公式セッションはキックオフ2時間、毎日1時間のオフィスアワー、最後のファイナル1時間だけだった。準備はAWSとの数回の調整と参加者募集で済んだとされる。
- 日本でも同じイベントは利用できるか?
- 現時点の公開情報では、日本でのAWS AI League提供予定は確認できない。AWS Workshop Studioは一般的なAWSサービスのため技術的には国内でも利用できる可能性があるが、AI Leagueの実施条件や料金はAWSとの契約による部分が大きい。導入したい場合は、AWSアカウント担当者への確認が早いとみられる。
用語解説
- エージェント型AI
- AIが自律的に判断・行動し、外部ツールや他のAIと連携して課題を遂行する技術。
- AWS AI League
- AWSが提供する競技形式のハンズオン学習イベント。AWS Workshop Studio上で課題を解き、リーダーボードで競う。
- Amazon Bedrock
- AWSの基盤モデルをAPIで利用するマネージドサービス。多様なモデルを選択してアプリケーションに組み込める。
- Amazon Bedrock AgentCore
- AIエージェントの実行や管理を支援するマネージド基盤。ゲートウェイ、メモリ、コード実行機能を備える。
- Amazon Bedrock Guardrails
- AIモデルの入出力をフィルタリングし、不適切なコンテンツを防ぐAWSの安全機構。
- Model Context Protocol(MCP)
- AIモデルと外部ツールの間で機能呼び出しを標準化するオープンプロトコル。
出典
From theory to delivery: How Atos upskilled 400 engineers in agentic AI
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