- ChatGPT開発者のDiogo Almeida氏が創業したTypeSafe AIが非LLMモデル「Jev」を公開
- テキストではなく確率を出力し、出力トークンは無料、入力トークンは十億単位で課金
- Vercelは分類器で5〜18倍の高速化と精度向上を報告、競合の登場も予想
「Jev」とは何か
OpenAIでChatGPTの開発に携わり、その後にRLHF(人間のフィードバックによる強化学習)を考案したDiogo Almeida氏は、2年前にOpenAIを離れてTypeSafe AIを創業しました。同社は今週、トランスフォーマーベースの新しいモデル「Jev」を公開しました。Jevは大規模言語モデル(LLM)ではありません。文章を生成する代わりに、確率、同社が「キャリブレーションされた意思決定」と呼ぶものを出力します。
Almeida氏は、現在のAIが人間の言語に最適化されている点を問題視しています。同氏はTechCrunchに対し、人間の言語を扱う技術は4年間で非常に優れたものになったが、コンピュータは別の言語を話すため自動化には役立たない、という趣旨を述べています。言語を捨てることで、モデルは極めて安価で高速になると同社は説明しています。
安さ・速さ・幻覚なし
Jevの特徴は、ユーザーが出力を事前に定義する設計にあります。そのため、モデルが事実と異なる内容をもっともらしく返す「幻覚」が起きないとされています。出力トークンは無料で、入力トークンは百万単位ではなく十億単位で課金される点も、既存のLLMとは大きく異なります。用途としてはソフトウェア自動化が最も有望視されており、開発者はコードに知能を組み込むための安価で堅牢な手段と見ているようです。
開発者の関心は高く、需要が大きすぎたため、同社は一時的にAPIからユーザーにサービスを提供できない状態になったと報じられています。
開発者による検証
Vercelのソフトウェアエンジニア、Pranit Sharma氏によると、同社はコマンドの安全性をレビューする分類器にOpenAIの「ChatGPT Luna 5.6」を使っていました。これをJevに置き換えたところ、結果は5〜18倍速くなり、精度も向上したということです。
Bryo AIのCTO、Nikhil Mudholkar氏は業務メールの分類でJevとGeminiを比較しました。Geminiの方がわずかに精度は高かったものの、コストは10〜20倍だったとしています。同氏は、本物の確率を返すモデルはJevだけであり、ワークフロー自動化に理想的だと評価しています。
ジェヴォンズのパラドックス
Jevという名前は、19世紀の経済学者ウィリアム・スタンリー・ジェヴォンズに由来します。コストが下がると、かえってその利用が広がるという「ジェヴォンズのパラドックス」を踏まえた命名です。Almeida氏は、知能のコスト低下によって、現在主流の巨大アプリではなく初期のインターネットに近い形でソフトウェアが広く分散していくという見方を示しています。
JevはLLMの置き換えだけでなく、LLMの監視にも使えるとされています。エージェントの動作履歴(トレース)を追跡してジェイルブレイクを防いだり、入力に応じて処理を振り分けるモデルルーティングに使ったりする構想です。エージェントをエージェントで監視するとコストが膨らみますが、Jevなら現実的だとAlmeida氏は主張しています。EarendilのCTO、Armin Ronacher氏は、有用性が明らかになったことで競合が生まれるだろうと予想しています。
公開されていない部分
モデルのアーキテクチャは公開されていません。外部の観測者は、オープンウェイトのLLMの上に構築されていると推測しています。同社はJevを、推論よりも直感に焦点を当てた「システム1モデル」と呼び、合成データのみを使って「キャリブレーションされた意思決定からの強化学習」という手法で学習させたと説明しています。
また、LLMの監視に使う場合、幻覚の問題が利用者側に一部委ねられるという指摘もあります。Ronacher氏は、結果が50%の確率で返れば利用者がそれを無視し、95%なら処理に使うといった判断が必要になると説明しています。TypeSafeは今後、新しいモダリティのモデルも開発する予定です。
| 検証元 | タスク | 比較対象 | 結果 |
|---|---|---|---|
| Vercel(Pranit Sharma氏) | コマンドの安全性レビュー用分類器 | OpenAIのChatGPT Luna 5.6 | 5〜18倍高速、精度も向上 |
| Bryo AI(Nikhil Mudholkar氏) | 業務メールの分類 | Gemini | Geminiがやや高精度、コストは10〜20倍 |
The problem is we are optimizing for human language … We have been super good at human language for four years, but it’s not useful for automation because computers speak a different language.
問題は、私たちが人間の言語に最適化していることだ。……私たちは4年間、人間の言語を扱うことにかけて非常に優れてきた。しかし、コンピュータは別の言語を話すため、それは自動化には役に立たない。
今後の見通し
TypeSafe AIはJevの新しいモダリティのモデルを開発する予定で、EarendilのCTO、Armin Ronacher氏は競合が生まれるだろうと予想しています。ただし、どの企業がどのような非LLMモデルを出してくるかは現時点では不明です。Jevのアーキテクチャが公開されれば、外部の観測者が指摘する「オープンウェイトのLLMの上に構築されている」という見方の妥当性も確かめられるでしょう。導入を検討する企業にとっては、日本語データでの精度、具体的な料金体系、APIの安定性、対応地域が明らかになるかどうかが判断材料になるとみられます。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、この発表は「LLM一択」だった設計を見直すきっかけになり得ます。コマンドの安全性判定やメール分類、エージェントの監視、リクエストの振り分けといった用途は、文章生成を必要としない処理です。ここをLLMで処理していた企業は、同じ品質をより安く速く実現できる選択肢が増えることになります。特に、エージェントの動作を別のエージェントで監視する構成はコストが課題になりやすく、確率を返す軽量モデルの出番があると考えられます。一方、モデルのアーキテクチャは非公開で、外部からは検証しにくい点に注意が必要です。自社データでの精度や日本語処理の可否は、導入前に検証で確かめるべきでしょう。出力が確率で返る設計は、しきい値の決め方や運用ルールを開発者側に求めることも意味します。
気になる点
- Jevは日本から利用でき、料金はいくらですか
- 原文にはAPI経由で提供されていると記されていますが、対応地域や日本での提供可否は明記されていません。料金についても、出力トークンが無料で、入力トークンは百万単位ではなく十億単位で課金されるという説明にとどまり、具体的な単価は公表されていません。最新の提供条件は同社の公式情報で確認する必要があります。
- 既存のLLMをJevに置き換えられますか
- 分類やルーティング、エージェント監視など、出力を事前に定義できるタスクでは置き換え例が報告されています。一方、文章生成のように自由なテキスト出力が必要な用途はJevの対象外です。原文ではVercelの分類器やBryo AIのメール分類が例として挙げられており、すべての用途を代替するものではないとみられます。
- なぜ幻覚が起きないのですか
- Jevはテキストではなく確率を出力し、ユーザーが出力の選択肢を事前に定義する設計だからです。原文では、結果が50%の確率で返ればコイン投げとして無視し、95%なら処理に使うという判断を利用者が行うと説明されています。つまり幻覚の問題は、利用者側の判断に一部委ねられるという指摘もあります。
用語解説
- RLHF
- 人間のフィードバックによる強化学習。人間の評価を報酬としてモデルの振る舞いを調整する学習手法で、対話AIの品質向上に使われてきた。
- LLM
- 大規模言語モデル。大量のテキストで学習し、文章を生成するタイプのモデル。Jevはこのタイプには当たらないとされる。
- 幻覚(ハルシネーション)
- AIモデルが事実と異なる内容をもっともらしく出力してしまうこと。Jevでは起きないと同社は説明している。
- トランスフォーマー
- 現在の主要なAIモデルの基礎となっているニューラルネットワークの構造。Jevもトランスフォーマーベースとされる。
- モデルルーティング
- 入力内容に応じて、処理を担当するモデルを振り分ける仕組み。軽量モデルを振り分け役に使う構想が示されている。
- ジェヴォンズのパラドックス
- ある資源の利用効率が上がってコストが下がると、かえって消費量が増えるという経済学の考え方。
出典
A new kind of AI model from a ChatGPT inventor is thrilling developers
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