
- Disneyは9月に550万ドルを支払い、CEOを含む従業員の多数を雇用した
- 破産手続きを通じ、コードや安全モデレーション技術などのライセンス獲得を目指す
- 元の会社には訴訟と規制調査の責任が残る構造で、専門家は法の想定外と指摘
何が起きたのか
チャットボットを手がけるCharacter.AIが、2026年10月12日付で連邦破産法第11章(Chapter 11)の適用を申請しました。破綻は業界の先行きを示す出来事として受け止められた面もありますが、裁判資料が示すのは別の姿です。この破産申請は、Disneyとの取引を完了させるために組み込まれた手続きだったとみられます。
裁判資料によると、Disneyは9月の時点でCharacter.AIに550万ドルを支払い、さらに返還可能な200万ドルの「good faith deposit(誠意金)」を拠出しました。同時に、当時CEOだったKarandeep Anand氏を含む従業員の「多数」を雇用しています。Disney側となった元従業員の一部は、その後5か月間、Character.AIの運用を支えることにも合意しました。
破産手続きで得るもの
Disneyが破産手続きを通じて狙うのは、Character.AIの技術を使い続けるためのライセンスです。裁判資料には、コードやドキュメント、フレームワーク、ツールなどの広範な対象に対する、永続的・全世界・非独占のライセンスを確保したいと記載されています。対象には、信頼性・安全性のモデレーション基盤、学習インフラ、年齢推定技術も含まれます。一方で、ユーザーのデータとCharacter.AIのウェブサイトは対象のリストに入っていません。
このライセンスは今後数か月のうちに競売にかけられます。Character.AIと無担保債権者委員会がDisneyを落札者に選び、裁判所が承認すれば、Disneyは追加で1,250万ドルを支払います。落札できなかった場合、Disneyには200万ドルの保証金が返還され、breakup fee(取引不成立時の手数料)も支払われるとされています。
競争プロセスの維持を図る条項も盛り込まれました。Disneyが雇った「特定の新規雇用者」の最大80%について、落札者が面接し、場合によっては雇用を申し出ることをDisneyは認めています。ただし、どの従業員を対象にするかを選ぶ権利はDisney側にあります。
「逆アクハイア」の新形態
この取引は、いわゆる「逆アクハイア(reverse acquihire)」の新しい変形とみられます。買い手が対象企業との取引を段階的に組み合わせ、主に重要な従業員の採用と、技術を使い続けるための広範なライセンスを手に入れる手法です。従業員を失った対象企業は、実質的に抜け殻になります。
企業側はこうした取引を「合併ではない」と位置づけ、本来なら必要とされる連邦反トラスト当局への通知を避けてきました。AI業界では近年こうした手法が一般化しており、議会からの反発も招いています。
米メンフィス大学ロースクール教授で、米連邦取引委員会(FTC)競争局の元副局長を務めたJohn Newman氏は、買い手が資産だけを取り責任は取らないという問題に対処するため、数十年かけて会社法の枠組みが発達してきたと説明します。そのうえで、今回の取引は極めて異例で、そうした会社法上の歯止めが想定していなかった形だと述べています。
Googleとの前例と訴訟
Character.AIにとって逆アクハイアは初めてではありません。2024年8月、Googleが同社の技術ライセンスに対して27億ドルを支払ったと報じられています。Googleは創業者と機械学習の事前学習研究チームも採用しましたが、従業員の「大多数」は同社に残ったとされています。
その後、GoogleはCharacter.AIとともに複数の訴訟で被告に名を連ねました。14歳の少年が自殺したのは、チャットボットが情緒的に依存させ、性的に搾取する関係を育てたためだと主張する訴訟もあります。Googleは別会社であり問題の事象はライセンス契約より前だと反論しましたが、裁判官はこれを認めず、原告が「ほう助・教唆(aiding and abetting)」による責任を十分に主張していると判断しました。今年1月には両社が一連の訴訟を和解する方向で原則合意し、カリフォルニア州の遺言検認裁判所が7月に和解全体を承認、個別和解は審判役(referee)が10月11日、破産申請の前日に承認しています。
州側の動きも残っています。Character.AIが破産を申請した時点で、46の州と準州が多州調査に関わっていました。全米州司法長官協会(NAAG)が40州を代表して提出したnotice of interestには、未成年者に自傷を隠すよう促したり、親を殺すよう促したりするチャットボットのスクリーンショットなど、調査で「serious issues(重大な問題)」が見つかったと記されています。Character.AIの広報は、この書面は「当社プラットフォームの安全性を正確に描いたものではない」と反論しています。
残る論点と不透明さ
Disneyは本件についてコメントを拒否しており、破産申請が取引の条件だったかどうかは公表されていません。Character.AIの広報も、破産手続きの結果について推測することはできないとして、裁判資料(ドケット)を参照するよう求めています。
州側は破産計画に異議を唱える権利を留保しており、手続きの最終的な帰結を巡って争いになる可能性があります。競売の結果、裁判所の承認、州の対応という3つの変数が、取引の成否を左右するとみられます。
専門家は、Disneyが雇った従業員を落札者が数か月のうちに再び採用するという想定の現実味にも疑問を投げかけています。一度成立した取引を巻き戻すのは容易ではないため、競争プロセスを維持するための条項が実効性を持つかは不透明です。
| 項目 | Disney(2026年) | Google(2024年) |
|---|---|---|
| 支払額 | 550万ドル+保証金200万ドル、落札時さらに1,250万ドル | 27億ドル(ライセンス料) |
| 取得した人材 | CEOを含む従業員の多数 | 創業者と機械学習の事前学習研究チーム |
| 対象 | コードや安全モデレーション技術などの非独占ライセンス(競売次第) | 取引時点の既存AI技術のライセンス |
| 法的責任 | 破産手続きで切り離し、元会社に残す構造 | 被告として訴訟に名を連ね、今年1月に和解で原則合意 |
“It’s bad for society to let companies exercise control without responsibility,” says Newman. “And that’s what it looks like.”
「企業が責任を負わずに支配力を行使できる状態は、社会にとって悪い。そして今回の取引は、まさにそう見える」とニューマン氏は述べている。
今後の見通し
破産手続きは今後数か月、ライセンスの競売と裁判所の承認を軸に進むとみられます。Disneyが落札するか、州の連合が破産計画に異議を唱えるかが最初の分岐点です。並行して、40州による調査の行方と、既に和解した個人訴訟の個別審理の進展が、Character.AIに残る責任の重さを左右します。逆アクハイアに対する連邦議会や反トラスト当局の姿勢が強まれば、同様の取引の設計コストは上がる可能性があります。競売の結果、363 Free and Clear Orderの承認内容、州司法長官らの申立てが揃う時点が判断材料になりそうです。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
今回の構造は、AIスタートアップとの提携や技術導入を検討する日本のIT企業にとって、契約設計の参考になります。人材と技術の利用権を確保しつつ、製品の安全性を巡る訴訟や規制調査の責任を切り離すという発想です。日本では会社分割や事業譲渡で債務を切り分ける手法が一般的ですが、AIの安全性を巡る集団訴訟や多州調査のようなリスクは国境を越えて及びます。自社のAIを外販する企業は、利用規約やライセンス契約で責任の分界をどこまで明確にできるかを点検する必要があるでしょう。また逆アクハイア型の取引が増えれば、AI人材の流動性や技術アクセスの公平性が競争政策の論点になります。日本の公正取引委員会の基準がどう当てはまるかは、今後の検討課題と考えられます。
気になる点
- DisneyはCharacter.AIのユーザーデータも手に入れるのか
- 裁判資料に記載されたライセンス対象のリストには、ユーザーのデータとCharacter.AIのウェブサイトは含まれていません。記事では、ユーザーデータは破産手続きにおいて追加の保護を受けうると説明されています。ただし、最終的な取引範囲は競売と裁判所の承認を経て確定するため、現時点で断定はできません。
- Disneyが競売で選ばれなかった場合はどうなるのか
- Disneyには200万ドルの保証金が返還され、breakup fee(取引不成立時の手数料)が支払われると裁判資料に記されています。また落札者は、Disneyが雇った「特定の新規雇用者」の最大80%について面接し、雇用を申し出ることができます。誰を対象にするかはDisneyが選ぶ権利を持ちます。
- 州の調査はこの破産で終わるのか
- 終わるとは言えません。40州を代表してnotice of interestを提出した州側は、破産計画に異議を唱える権利を留保していると記事は伝えています。46の州と準州が関与していた多州調査の帰趨や、Character.AIと州の交渉が今後どうなるかは、現時点では公表されていません。
用語解説
- 逆アクハイア(reverse acquihire)
- 買い手が対象企業との取引を段階的に組み合わせ、主に人材と技術ライセンスを取得する手法。対象企業は従業員を失い抜け殻化する。
- 連邦破産法第11章(Chapter 11)
- 米国の事業再生型の破産手続き。事業を続けながら、債務整理や資産売却を裁判所の監督下で進める。
- 363 Free and Clear Order
- 米連邦破産法363条に基づき、債務や担保を引き継がずに資産を売却できることを明確にする裁判所命令。
- 無担保債権者委員会
- 破産手続きにおいて無担保債権者の利益を代表し、資産売却などの条件の交渉に関与する委員会。
- 規制上のオーバーハング
- 規制当局の調査や訴訟が続くことで、企業価値の評価や売却が難しくなる状態を指す。
出典
Disney found a way to buy Character.AI without buying its lawsuits
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する