
- 全米の水消費量の1%未満だが、2030年には最大1125億リットルに達する予測
- AI特化型データセンターは液体冷却を導入し、水の蒸発損失を抑えられる
- 立地選定と再生可能エネルギーへの転換で将来の水使用を86%削減できる
抗議の背景と水使用の実態
米国テキサス州からニューメキシコ州、アリゾナ州にかけて、データセンターの水使用や電力消費に抗議する住民の声が広がっている。プラカードには「水を守れ」「人々のために水を、AIのためにではない」といった文字が掲げられた。データセンターはサーバーを冷却するために水を蒸発させる方式を多く採用しており、その水使用が地域の水資源を圧迫するのではないかという懸念がある。
データセンター内のプロセッサは最大で華氏176度(約80度)に達することがあり、冷却は必須だ。ただし、水使用量をめぐる議論は複雑で、インターネット上ではチャットボットが1回の問い合わせで500mlの水を消費するという主張がある一方、AIの水問題は存在しないという意見もある。実態はその中間にある。
消費量の推計と誤解
研究者の推計では、2023年に米国のデータセンター冷却システムが消費した水は660億リットルで、全米の水消費量の1%未満だ。一方、コーネル大学のFengqi You氏らの予測では、2030年には米国のデータセンターが年間731億〜1125億リットルを消費する可能性がある。最大値はニューヨーク市の年間飲料水供給量にほぼ匹敵する。
この数字には冷却だけでなく、データセンターに電力を供給する発電所の水使用も含まれている。石炭やガスを燃やす火力発電では、蒸気を冷やして水に戻すために大量の水を使う。太陽光や風力に切り替えれば、水使用を大幅に減らせるという点が重要になる。また、You氏は、水不足が深刻なアリゾナなどではなく、干ばつリスクが低く再生可能エネルギーが豊富なモンタナ州やネブラスカ州などに立地すれば、将来の水使用量を最大86%削減できると述べている。
冷却技術の進化と限界
従来のデータセンターは、ファンでサーバーから熱を排気し、冷却水を建物内に循環させて空気を冷やす方式だった。温まった水は冷却塔に送られ、蒸発によって熱を逃がす。この蒸発冷却は大量の水を消費する。一方、AI特化型データセンターでは、Amazon、Microsoft、Googleなどが液体冷却を導入している。液体冷却は配管内の水でプロセッサを直接冷やす閉回路方式で、水の蒸発による損失は原則としてない。
ただし、高温多湿の環境では、配管周囲にミストを噴霧するなど追加の水を使う冷却が必要になる場合がある。テキサス大学オースティン校のVaibhav Bahadur氏は、テキサス州のAIデータセンターの多くは真夏の最も暑い時期だけ水ベースの冷却を使うと話す。NVIDIAの持続可能性責任者Josh Parker氏は、最新のプロセッサは華氏113度(約45度)の水で冷却できるため、外気がその温度を超える熱波の時期を除けば、ファンと周囲の空気で熱を逃がせるという。
企業の取り組みと課題
大手テクノロジー企業も水使用の削減目標を掲げている。Amazon Web Servicesは2030年までに「ウォーターポジティブ」、つまり直接使用する水以上に地域社会へ水を還元することを目指しており、2024年時点で半分以上を達成しているという。Googleはデータセンターが消費する真水の120%を2030年までに涵養する計画だ。OpenAIも水使用を最小限にする計画を公開している。
さらに、欧州ではデータセンターの廃熱を地域暖房システムに供給する試みもある。一方で、カリフォルニア大学リバーサイド校のShaolei Ren氏は、プロセッサを高温で動作させると計算性能に悪影響を及ぼす可能性や、同じ施設内にある非AIサーバーは高温に耐えられないという懸念を指摘する。技術的な解決策はまだ発展途上だ。
不確実性と今後の焦点
現時点では、大手テクノロジー企業の水使用データは不完全で一貫性がないと専門家は指摘する。実際の消費量は、データセンターの立地、地域のエネルギー構成、気候、設計によって大きく変わる。マサネット氏は「選択肢の一つを選べば数字は桁外れになる。別の選択肢を選べば、はるかに低い数字になる」と述べ、今後の技術選択と政策が帰趨を分けると強調する。
浸漬冷却や海洋設置型データセンターなど新しい技術も登場しているが、導入にはコストや保守の課題がある。データセンターの水使用問題は、地域社会との合意形成と長期的な環境戦略の両方が求められるテーマになりつつある。
| 項目 | 従来型(空冷+蒸発冷却) | AI特化型(液体冷却) |
|---|---|---|
| 冷却方法 | ファンと冷却塔による蒸発冷却 | 配管内の水でプロセッサを直接冷却 |
| 水の消費 | 蒸発で大量の水を消費 | 基本は消費せず、高温多湿時のみミスト等で消費 |
| 対象ハードウェア | 従来のサーバーラック | 高発熱のAI向け高性能プロセッサ |
"If you choose one set of choices, your number is going to be off the charts," he says. "You choose another set of choices, it's going to be way down here."
「選択肢の一つを選べば数字は桁外れになる。別の選択肢を選べば、はるかに低い数字になる」と同氏は言う。
今後の見通し
AIデータセンターの水使用問題は、立地選定と冷却技術の進歩によって大きく変わる。今後は、企業が公表する水使用データの標準化が進み、地域ごとの水ストレス評価が整えば、より正確な判断が可能になるだろう。また、NVIDIAのような高温動作対応チップや浸漬冷却などの新技術がどの程度普及するかが、水需要の削減効果を左右する。日本企業が海外でデータセンターを建設・利用する際にも、こうした動向を踏まえたリスク評価が求められる。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
日本のIT企業にとって、AIデータセンターの水使用は、海外進出時の立地選定や設備投資の判断に影響する。従来は電力消費が注目されたが、水使用も持続可能性の指標として無視できない。特に乾燥地域にデータセンターを持つ場合、地域住民との関係や規制強化のリスクがある。液体冷却の採用や再生可能エネルギー由来の電力を選ぶことで、水使用を抑えた運用が可能になる。また、環境報告書で水使用量を開示することが、投資家や顧客からの信頼につながる可能性が高い。
気になる点
- チャットボットの1回の問い合わせで500mlの水を使うというのは本当か?
- 500mlという数値は、GPT-4を使った2024年の推定から出たもので、短いメール作成時に消費する水として示された。この数字は既に古く、2025年にGoogleは自社のチャットボットGeminiでの中央値の問い合わせに使う水は5滴程度と推定している。モデルの効率化で1回あたりは減ったが、利用総量の増加で全体の水使用は増える可能性がある。
- 日本でもデータセンターの水使用が問題になるのか?
- 記事は米国での事例を中心にしており、日本のデータセンターの水使用量や地域への影響は示されていない。日本では気候や水資源の状況が米国南西部とは異なるため、同じ議論が当てはまるとは限らない。今後、国内でもデータセンターの立地に当たって水使用の評価が重要になる可能性はある。
- 液体冷却は既存のデータセンターにも導入できるのか?
- 記事では、液体冷却はAI特化型の新しいデータセンターで採用されている。既存の空冷式データセンターへの導入は、配管やサーバーの構成を大きく変更する必要があるため、容易ではないとみられる。ただし、NVIDIAのように高温動作に対応したプロセッサを使えば、ファンと外気だけで冷却できる場合もある。
用語解説
- データセンター
- サーバーや通信機器を集中設置し、インターネットサービスを支える施設。
- 液体冷却
- 水などの液体を配管で循環させ、プロセッサを直接冷やす方式。蒸発による水損失が少ない。
- 蒸発冷却
- 水を蒸発させるときの気化熱で熱を奪う冷却方法。データセンターの冷却塔で使われる。
- 水ポジティブ
- 事業で使用する水以上に、地域社会へ水を還元することを目指す考え方。
- 浸漬冷却
- サーバー全体を冷却液に浸して冷やす方式。効率は高いが保守が難しい。
出典
How much of a problem is AI’s water use?
https://arstechnica.com/ai/2026/08/how-much-of-a-problem-is-ais-water-use
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