
- Listen Labsは15億ドル評価・1億2,500万ドルのSeries Cのタームシートに署名後、クローズしなかった
- 背景にはSalesforceによる約20億ドルの買収協議があるとみられるが、合意は未確定
- 創業3年で年間経常収益は約3,000万ドル、競合のSimileの約3倍。競合にはAaruなども
調達撤回と買収協議
顧客調査をAIで自動化するスタートアップListen Labsが、1億2,500万ドルのSeries Cラウンドについてタームシートに署名しながら、そのラウンドをクローズしなかったと報じられました。複数の関係者によると、評価額は15億ドルで、Menlo Venturesがリードする予定でした。署名済みのタームシートから手を引くのはベンチャー業界では珍しく、一般的に好ましくない行為とされています。
資金調達が頓挫した背景には、Salesforceとの買収協議があるとみられます。Business Insiderによれば、Salesforceは約20億ドルでListen Labsを買収する協議を最近行いました。ただし協議は最終合意に至っておらず、取引が成立しない可能性もあるとされています。
TechCrunchの取材に対し、Listen Labs、Salesforce、Menlo Ventures、Simileはいずれもすぐにはコメントしていません。
AIが担う顧客調査
Listen Labsは2023年にFlorian Jüngermann氏とAlfred Wahlforss氏が共同創業しました。Jüngermann氏は競技プログラミングのドイツ国内チャンピオン経験者で、Wahlforss氏は人材派遣スタートアップBemloを創業した人物です。2人はハーバード大学の修士課程で出会ったとされています。
同社のAIはアンケートの質問項目を作成し、音声またはビデオで顧客にインタビューします。得られた会話はレポートやPowerPointプレゼンテーションにまとめられ、従来は人間の市場調査担当者が作っていた成果物に近い形になります。
Fortune 500企業はブランドや製品に対する顧客ニーズや満足度を把握するためにこうした調査を利用しますが、従来の市場調査は高コストで、完了までに数週間かかることがあります。Listen Labsの技術は、こうしたプロジェクトの時間とコストを削減し、製品変更に対する顧客の反応を素早く把握して改善を効率化できるとされています。顧客にはMicrosoft、Canva、Anthropic、Sweetgreenが含まれます。
競合と評価額の基準
Listen Labsは、AIによる顧客調査の自動化という急成長分野の有力スタートアップの一つです。創業3年で年間経常収益は約3,000万ドルに達し、人間の行動を予測する競合Simileの約3倍とされています。
Simileは7月下旬、Greenoaksがリードする2億ドルのSeries Bを20億ドルの評価額でクローズしたと発表しました。関係者の一人によれば、これがListen Labsの評価額の新しい基準になった可能性があります。
競合はSimileだけではありません。Outset、Keplar、Aaruも同分野に参入しています。一部のプラットフォームは実在の人間へのインタビューを自動化する一方、AaruやSimileはAIで人間の行動をシミュレートし、誰にもインタビューせずに回答を予測する合成(シンセティック)型のアプローチを採ります。
Listen Labsは1月下旬、Ribbit Capitalがリードし、既存投資家のSequoia、Conviction、Pear VCが参加した6,900万ドルのSeries Bを発表した時点で、評価額は5億ドルでした。
Salesforce側の見方
SalesforceにとってListen Labsの買収は、同社のAIを使って顧客ニーズの予測を支援することでAI機能を強化し得る選択肢です。ただしSalesforceとの出口交渉を経験した関係者によると、CRM大手が最終的に、売上高の67倍という評価倍率を高すぎると判断する可能性があります。
Salesforceとの協議が決裂した場合、複数のVCはListen Labsが市場に戻り、20億ドル以上の評価額を目指すと予想しているとTechCrunchは伝えています。
現時点で確定しているのは、Series Cがクローズされなかったことと、Salesforceとの買収協議が報じられていることまでです。買収の成否や時期は明らかになっていません。
| 項目 | Listen Labs | Simile |
|---|---|---|
| 直近の資金調達 | Series C 1億2,500万ドル(15億ドル評価)だが未クローズ | Series B 2億ドル(20億ドル評価)をクローズ済み |
| リード投資家 | Menlo Ventures(予定) | Greenoaks |
| 年間経常収益 | 約3,000万ドル | 非開示(Listen Labsの約3分の1とされる) |
Listen Labs walked away from the signed term sheet, a rare occurrence in the venture world and one that is generally frowned upon, according to VCs.
Listen Labsは署名済みのタームシートから手を引いた。ベンチャー業界では珍しい出来事であり、VCによれば一般に好ましくないとされる行為だ。
今後の見通し
焦点はSalesforceとの買収協議がまとまるかどうかです。協議は最終合意に至っておらず、取引に発展しない可能性もあるとされており、決裂すればListen Labsは再び資金調達市場に戻り、20億ドル以上を目指すとVCは予想しています。一方で、売上高の67倍という評価倍率が高いとSalesforce側が判断する可能性も指摘されています。今後、買収の正式発表か、新たなSeries Cの条件が明らかになれば、AI調査スタートアップの適正評価額を判断する材料になるとみられます。
日本の開発者・IT企業にとっての意味
AIによる顧客調査の自動化は、これまで人手と時間がかかっていたUXリサーチや市場調査の工程を短縮する領域で、日本企業にも無関係ではありません。国内でもSaaSやEC、コンシューマー向けサービスを手がける企業は、製品変更に対する顧客の反応を早期に把握する必要性が高く、同種ツールの導入や内製を検討する動きが出るとみられます。Salesforceが買収に動いていることは、CRMベンダーが「顧客の声を集める工程」そのものを取り込もうとしている動きとして読めます。実現すればCRM上の顧客データとAIインタビューの結果を組み合わせた機能が提供される可能性があり、国内のCRM/SFA関連製品の戦略にも影響し得ます。ただし買収は未確定で、日本での提供可否や価格は明らかにされていないため、導入判断は情報が出てからでよい段階です。
気になる点
- Salesforceによる買収は実現しますか
- 現時点では未確定です。Business InsiderはSalesforceが約20億ドルで買収協議を行ったと報じていますが、協議は最終合意に至っておらず、取引が成立しない可能性もあるとされています。Salesforceとの出口交渉経験を持つ関係者によれば、売上高の67倍という評価倍率が高すぎると判断される可能性もあり、結論は今後の発表を待つ必要があります。
- Listen LabsのAIは具体的に何をするのか
- AIがアンケートの質問項目を作成し、音声またはビデオで顧客にインタビューします。その会話をレポートやPowerPointプレゼンテーションにまとめるところまでを担うとされています。従来は人間の市場調査担当者が数週間かけて作っていた成果物に近いもので、顧客にはMicrosoft、Canva、Anthropic、Sweetgreenが含まれます。
- 日本企業でも導入できますか。料金はいくらですか
- 原文には日本での提供状況や料金についての記載はなく、現時点では公表されていないとみられます。言及されている顧客はMicrosoft、Canva、Anthropic、Sweetgreenなど米国を中心とする企業です。対応言語や契約体系、価格は別途一次情報を確認する必要があります。
用語解説
- タームシート
- 投資条件の主要項目をまとめた文書。署名後も正式契約まで交渉が続き、撤回されることもある。
- Series C
- スタートアップの資金調達ラウンドの呼称。一般に創業から数えて3回目の大型調達を指す。
- 年間経常収益
- 繰り返し得られる収益を年換算した指標。英語ではannualized revenueやARRと呼ばれる。
- レベニューマルチプル
- 企業価値を売上高や経常収益で割った倍率。高いほど市場の期待が大きいとされる。
- シンセティック調査
- AIで人間の行動をシミュレートし、実在の人に聞かずに回答を予測する調査手法。
出典
AI research startup Listen Labs scrubbed a $1.5B funding round for Salesforce talks
AI導入も顧問も、お任せください
何から手をつけるか、どこまでAIに任せるか。自社の業務に合わせて整理し、導入から運用まで伴走します。相談だけでも構いません。
AI導入について相談する